お道の視点から生命倫理を考える – 澤井努さん 広島大学大学院人間社会科学研究科准教授
京都大学の山中伸弥教授が発見したiPS細胞や、遺伝子を操作するゲノム編集など、生命科学の飛躍的な発展により、これまで不治とされていた病気の治療が可能になりつつある。その一方で、「精子や卵子の作製と利用」「動物の体内における人間の臓器の作製」などの是非をめぐって、さまざまな倫理的課題が生じている。
「科学が”アクセル”だとすれば、生命倫理は”ブレーキ”に喩えられることがある。しかし、生命倫理学に携わる研究者としてはむしろ、最先端の科学技術に対する”信号機”の役割を果たしたい」
広島大学大学院人間社会科学研究科准教授の澤井努さん(36歳・敷土分教会敷土東布教所教人・広島県東広島市)。天理高校、天理大学を経て、京都大学大学院へ進学する。大学院在学中の2012年に英国オックスフォード大学へ留学。直後に、山中教授がiPS細胞の発見によりノーベル賞を受賞したという知らせが届き、留学先の指導教員の勧めでiPS細胞の倫理的課題についての研究を始めた。このときの研究がきっかけで、帰国後は山中教授が所属する京都大学iPS細胞研究所へ。以後、生命倫理研究に没頭した。
同研究所では科学者の同僚に恵まれた。現在、生命科学の専門知識を有する倫理研究者自体が少なく、最先端の技術や知識を迅速かつ正確に把握するには、科学者との協働が不可欠と澤井さんは語る。
「このとき役立ったのが、天理高校、天理大学での経験だった。おぢばで人間関係の基礎を培えたおかげで、分野の異なる科学者とも円滑に共同研究を進められた」と振り返る。
また澤井さんは、ある倫理的課題に対して多方面からのアプローチが必要になる場面では、お道の教えも重要な視点の一つだと考える。
「たとえば、受精卵にゲノム編集を施すことで、病気にかかりにくい子供を誕生させることが理論上可能になっている。これを実際に行ってよいかを考えたとき、そもそも病気がなぜ存在するのか、また病気は治療の対象にすべきなのかを掘り下げることができるのは、お道の教えを知っているからこそ」と語る。
生命倫理の研究に着手してから10年。先ごろ、これまでの研究をまとめた著書『命をどこまで操作してよいか――応用倫理学講義』(慶應義塾大学出版会)が「日本医学哲学・倫理学会賞」を受賞した。
昨年から所属する広島大学大学院では、国内外の研究者と複数の研究プロジェクトに取り組むなど、多忙な日々を送る。
澤井さんは「これまでさまざまな分野の専門家と連携し、互いの強みを生かしながら研究を進めてきた。今後も一ようぼくとして、生命倫理学と天理教学の発展に寄与していきたい」と話す。