気疲れする返品 – Well being 日々の暮らしを彩る 16
2026・4/22号を見る
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通販でおっくうなのは返品のとき。なるべく返品しなくてすむよう、衣料品ならサイズの号数だけでなくセンチメートルまで確認して買う。それでも返品せざるを得ないケースが。
先日は白いTシャツを購入。届いて試着しようとし、小さなしみに目が留まった。襟ぐりの中央に、鉛筆の先ほどの黒い点。塵かと思い払ってみても、とれない。洗えば落ちるかもしれないけれど、その可能性に賭けるのは危険。ひとたび水をくぐらせたら返品できなくなる。この段階で決断せねば。
色物、柄物ならまだしも白で、しかも選りに選っていちばん目につくところだ。やはり返品するしかない。
購入したのは大手ショッピングサイト。注文履歴から返品申請へと進む。返品理由を選ぶ欄があり、ひるんだ。「お客様ご都合」か「不良品」かの二択。
「不良品」とは穏やかでなく、気が引ける。点ほどのしみを「不良品」と言うのは事を荒立てるようで、うるさい客とか難癖をつけているとか思われないか。思われるって誰に? 相手は通販。思われて困る人間関係があるわけではないのだが。
「不良品」と言うからには証拠写真が要るかも。念のため撮っておこう。返品を受け付けてもらえるかどうかのだいじな画像。日当たりのいい窓際へ移動し、近すぎてはピントがぼけて、遠すぎてはどこがしみかわからず、スマホを構えた手を何度も伸び縮みさせた。
画像を準備した上で申請の続き。「不良品」にチェックマークを入れると詳細を記す欄が現れる。ここは丁寧に。「前の襟ぐり中央に小さな黒点があります。細かなことで恐縮ですが、白の服で位置も目につくところのため返品させていただきます」。
送信をクリックすると突き返された。文字数が送信できる範囲を超えているとのこと。記入欄にはまだ余白があり、文字数の規定もないのだが。「襟ぐり前中央に小さな黒点があります。細かなことで恐縮ですが返品させてください」。約めて送信し直し、なおも拒否。「襟ぐり前中央に小さな黒点があります」でようやく通った。
言い訳めいたことを書き連ねるより端的に記す方がいいらしい。証拠写真は求められずじまい。拍子抜けする。向こうにしたら「不良品」に該当するか個別に検討し、場合によっては押し問答になるよりも、一括で対応する方が合理的なのだろう。「言った者勝ち」のようなとまどいは残るが、大手だと処理件数も半端でないだろうから。
何かと気疲れする返品。今回は不可抗力みたいなもので仕方ないとして、なるべく返品せずにすむ買い方につとめよう。
岸本葉子・エッセイスト










