天理時報2023年11月1日号6面
【貴重資料が伝える王朝文学 – 天理図書館】「源氏物語展――珠玉の三十三選」天理図書館(安藤正治館長)は、10月18日から開館93周年記念展「源氏物語展――珠玉の三十三選」を天理参考館企画展示室で開催している。平安時代、中宮彰子に仕えた紫式部によって著された『源氏物語』は、人の手で書き写された数々の「写本」によって今日まで読み継がれ、絵画・音楽・演劇など日本文化のさまざまな分野に大きな影響を与えている。今展では、同館が所蔵する貴重な『源氏物語』資料群から、6月27日に国の重要文化財に指定された「源氏物語国冬本」(コラム参照)をはじめ、主要な物語写本や絵画資料、自筆注釈書など珠玉の33点を展示。会場では、図書館に伝存する各資料を通じて、雅やかな王朝文学にふれることができる。なお、今展は5月から6月にかけて、東京・天理ギャラリー(東京都千代田区)でも開催。平安時代を彩る貴重な資料を目当てに、連日多くの人々が訪れた。◇開催初日の18日、同館はテレビ番組『よんチャンTV』(毎日放送)で取り上げられ、館内の様子が生中継で紹介された。中継では、アナウンサーが、今年2月に国の登録有形文化財に登録された同館の建物をはじめ、調度品や所蔵する貴重書などについて詳しくリポート。最後に、『源氏物語展』の会場風景とともに、展示資料が紹介された。中江有里氏が来展10月24日には、女優・作家で現在、天理大学客員教授を務める中江有里氏が来展した。女優として、これまで数多くのドラマや映画に出演する一方、作家としても活躍している中江氏。現在、インタビュームック『すきっと』(道友社刊)にエッセー「忘れられない詞」を連載しているほか、読書に関する講演をはじめ、全国紙のエッセーや書評なども数多く手がけている。天理大学客員教授を務める、女優の中江有里氏が来館し、「源氏物語展」を鑑賞した(10月24日、天理参考館企画展示室で)中江氏は、天理図書館司書の案内を受けながら、およそ1時間かけて展示資料を鑑賞。「『源氏物語』の数々の写本をこの目で見て、強い感銘を受けた。なかでも興味深かったのは、江戸時代中期に作られたとされる『源氏物語絵巻模本』だ。今日まで『源氏物語』が伝えられてきた背景には、各時代に制作方法などを精密に記録し、その価値を後世へ伝えてきた人たちの存在があったからこそ。どんな書物も、持っているだけでは後世に伝わっていかない。そうした中で、日本古来の貴重書を良好な状態で保存しつつ、展覧会を通して一般公開している天理図書館の取り組みは非常に高い価値があると感じている」とコメントした。◇今展の会期は11月27日(月)まで(休館日は毎週火曜日)。開館時間は午前9時30分から午後4時30分まで(入館は午後4時まで)。会場は天理参考館企画展示室。詳しくは天理図書館ホームページへ。https://www.tcl.gr.jp/exh/exh-6414/源氏物語 国冬本 伝津守国冬等筆鎌倉末期・室町末期写(重要文化財)「源氏物語国冬本」は、鎌倉末期写の12冊と室町末期写の42冊を取り合わせた53巻54冊からなる。鎌倉末期写の12冊は、江戸時代の古筆鑑定等により、住吉大社の神官で歌人としても名高い津守国冬(1270~1320)の手によるものと伝えられる。源氏物語本文の二大系統「青表紙本」「河内本」ではない「別本」の鎌倉期写本が多く残された貴重な資料として、6月27日、文化庁から重要文化財に正式指定された。, 【寄り添い 受け入れ 策を施す – 日本史コンシェルジュ】江戸時代後期、日本中が経済的疲弊に喘ぐなか、600を超える村々を救ったといわれる二宮金次郎。今回は、そんな金次郎も手を焼いた桜町(現在の栃木県真岡市)の振興の事例をご紹介しますね。桜町は、耕地よりも荒地の面積が大きいという問題を抱えていました。そこで金次郎は、近隣から人を雇ったり移住を勧めたりして、人手を増やして新田開発に努めるとともに、農業用水を確保するため、用水路や堰を整備していきます。しかし、農民の中には金次郎に反発する者も多く、改革は遅々として進みません。嫌気がさした金次郎は、成田山新勝寺で21日間に及ぶ断食修行をしたそうです。その間、金次郎は自分の立場を離れ、反発する農民の身になって考えてみました。桜町には貧しさに耐えきれず夜逃げをする者も大勢いたのに、彼らは故郷に留まっている。桜町を愛しているのだ。そんな彼らが自分に反抗するのは、きっと過去に改革者を名乗る者が現れ、失敗すると農民に責任をなすりつけていたのだろう。そして自分も、そんな無責任な改革者の一人と思われたに違いない。ここまで想像すると、金次郎の心に、彼らへの愛おしさが溢れてきました。ちょうどそのとき、自らの態度を反省した農民たちが金次郎を迎えに来ました。金次郎は告げます。君たちは悲しみの歴史を紡いできたね。その悲しみを一緒に背負わせてほしい。でも、悲しみを分かち合うだけでは現実は変わらない。共に歯を食いしばって、過去を超えていこう。金次郎は問題にぶつかると、いつも相手を川、自分を水車に置き換えたそうです。水車は川の流れに沿って頭を突っ込みますが、半ばまで来るとグッと踏ん張り、流れに逆らうことでエネルギーを生みます。金次郎はまさに水車の役割を演じたのですね。この水車と川の関係は、相手が自然でも同じことです。ある年の初夏にナスを食べると、なぜか秋ナスの味がしました。金次郎はこのあと冷夏になると判断し、苗を抜いて寒さに強い稗や粟に植え替えるよう指導しました。その予測は的中。冷夏で日本中が凶作となり、餓死者が続出するなか、桜町は一人も餓死者を出さずに済んだのです。常に相手に寄り添い、現実を受け入れたうえで、対応策を施していく。金次郎が桜町に遺した足跡は、時代を超えて問題解決のヒントを与えてくれますね。