天理時報2023年2月8日号8面
【第37話 カンだけは変わらない – ふたり】午後の遅い時間になっても、太陽はまだ空の上のほうにあった。二人は浜辺に腰を下ろして、輝きを増しつつある海を見ている。「大学の図書館で借りた本に、こんなことが書いてあった」。ツツが遠い口ぶりで言った。「地球上で発見されている植物の90%以上は、地中の菌類がつくりあげる巨大なネットワークによってつながっている。この共生関係は、四億年前に陸上生物が出現したときからつづいているって」カンは海に目をやったまま聞いている。「巨大なジャイアントセコイアから可憐な高山植物まで、多種多様な植物が小さな菌類の活動によってつながっているの」。彼女は植物の根の話をつづけた。「菌類の根はとても細いので、普通の植物の根が入っていけない土壌の隙間にも潜り込むことができる。地中に棲む心強い相棒のおかげで、植物たちが活用できる土壌は大幅に広がる。そこで植物たちは、菌類の根を通して地球の裏側でおなかを空かせている仲間に養分を送ったりしているらしいの。凍てついた北の大地や、乾燥した砂漠や、標高の高い山の上で頑張っている仲間にも、カリウムやリンや炭素や窒素を届けている」近くに若い男女がいた。カラフルなビーチ・パラソルの下にビニールシートを敷き、並んで横たわっている。若いカップルを、ツツはしばらくまぶしそうに見ていた。「地中で小さな菌類たちがやっているようなことをやりたいと思った。世界中の人たちを結びつける仕事。奪い合ったり、憎み合ったりするかわりに、お互いに助け合う仕組みをつくる仕事。でも理想と現実は、やっぱり違うんだな。会社が必要としているのは面倒くさい雑務をやってくれる人間だった。領収書を整理したり契約書をつくったり……これだって地中で菌類がやっていることと変わらないのかもしれないけど」彼女は小さくため息をついた。「入社して一カ月くらいで夢はしぼんでしまった。遊園地とかで売っている綿菓子みたいに。ふわふわ膨らんでいた夢が、誰かに力まかせに握りしめられて、ちっぽけな現実になってしまった」水平線の向こうから、真っ白い雲が湧き上がっていた。いまは夏がつづいているように見えるけれど、ある朝、光の感じが変わる。するともう、秋がやって来ている。「きみは昔のままだね」。ふと隣に坐っているカンを見て言った。「何も言わないけど、いつもわたしを見ていてくれる。きみに会うと自分が戻ってくる気がする」ツツは言葉をおいて海の彼方へまなざしを細めた。「何もかも変わっていくのに、カンだけは変わらない。またTシャツを交換したくなっちゃった」作/片山恭一 画/リン, 【2年連続6回目の金賞に – 天理高バトン部】天理高校バトントワリング部は2022年12月10日、千葉市の幕張メッセで開催された第50回「バトントワーリング全国大会」(主催=一般社団法人日本バトン協会)高等学校バトン編成の部に出場。2年連続6回目の金賞を果たした。地方予選を勝ち抜いた高校が日本一を競う同大会。天理高バトン部は、関西予選を3位通過し、17回目の出場を決めた。今年は「ノードロップ(演技中にバトンを一度も落とさないこと)で金賞」を目標に掲げて練習に励んできた。大舞台で披露する演技テーマは「X(ジャンヌ・ダルク)」。フランスを救うために戦ったジャンヌ・ダルクの生涯を題材に、彼女の雄姿や苦悩を表現する。振り付け・演技指導をするのは、2017年に行われた「第9回WBTFインターナショナルカップ」個人種目で優勝を果たすなど、世界大会で輝かしい成績を収めた鈴木治コーチ(27歳・愛町分教会愛清布教所ようぼく・京都市)。6年前から同部コーチとして指導に携わる中で、技術面の指導はもとより、お道の教えを交えながら声をかけ、精神面でも部員たちの成長を促してきた。鈴木コーチは「練習では『常に百パーセントの力を出し、自分の限界を更新していく』ことを意識するよう指導している。部員一人ひとりの努力の積み重ねが、チームを成長させると思う」と話す。同部の部員は、大会の1週間前から定刻参拝前に本部神殿で連日お願いづとめを勤めたほか、練習の合間には”徳積み”としてごみ拾いをするなどの信仰実践も重ねてきた。最高の成績で”恩返し”迎えた全国大会当日。メンバーは鎧を模したシルバーの衣装を身にまとい、ステージへ。神秘的な音楽が流れるなか、演技スタート。メンバーは時に勇ましく、時に悲哀を滲ませながら、ジャンヌ・ダルクの生涯をバトンや体の動きで表していく。クライマックスでは、ジャンヌ・ダルクが十字架に架けられる様子を鬼気迫る演技で表現。一糸乱れぬ高度な技術と情感豊かなパフォーマンスに、観客席から拍手が湧き起こった。結果、2年連続6回目の金賞に輝いた。杉本沙希キャプテン(3年)は「『いずれ天理高バトン部が全国1位を』と話していた鈴木コーチの思いを聞いて、少しでもその目標に近づけるように無我夢中で練習してきた。今回、過去最高のパフォーマンスをすることができ、コーチや先生方はもちろん、部活動を支えてくれた方々や家族に”恩返し”ができたと思う」と笑顔で語った。◇全国大会後の2022年12月18日、同じテーマで臨んだ第43回「関西中学校・高等学校バトントワーリング大会」では、審査員から「テーマと構成がマッチしており、ジャンヌ・ダルクの世界観が伝わってきた」と作品の完成度と表現力を高く評価され、金賞に加え優秀賞を受賞した。