天理時報2021年5月9日号8面
天理時報90年記念創刊懸賞エッセ入選作品テーマひのきしんに生きる田中33歳・美濃福富分教会長後継者・岐阜市私たち父子の合言葉生まれ育った教会は山や川、田畑に囲まれた自然豊かな場所にある。地域住民のつながりが強く、農事に関する行事も多い。この土地で先代はにをいがけ・おたすけに奔走し、教会名称のお許しを戴いた。設立から50年。その思いを受け継ぎ、教会長である父と共に、地域に根差した教会を目指して走り回っている。「つとめさせていただきます」受話器を握る父の声が聞こえてきた。「緑内障」で目が不自由なことから車の運転を控えており、御用には私が同行する。そのおかげで父の信仰姿勢にふれることができ、数多くのことを学んでいる。その一つが「ようぼくの三信条」と教えられる「ひのきしんの態度」だ。父に同行する中で、ひのきしんの御用をたびたび頂く。道専務で通る者として、これほどうれしいことはない。その際、父からは「何をするのか」「なんのために行くのか」を告げられないことが多い。父の着る服を見て、乗車前に慌てて着替えることもある。「ここに入って」ある日、父の道案内で現場場ににと着いた。山のふもとにある土土場場だった。見知らぬ人が父と談笑し始めた。以前、にをいがけ中に知り合った人のようだ。「これ、全部よろしいですか」父が指さす先に、伐採された木が無数にあった。その瞬間、大教会で炊きものをする際の用材として届けるのだと分かった。父と声をかけ合いながら、トラックに積み込む。一日中、汗を流す「親子ひのきしん」だった。「用水路近くにいるよ」この日、父は除草作業をしていた。そのとき父の心配りを見た。刈り取った草を、使い終わった分厚い材質の肥袋に入れ、さらに市指定のごみ袋で二重に包んでいく。指定のごみ袋だけでは硬い草の茎が飛び出し、袋が破れてしまう。ごみ収集をする人への配慮も欠かさない「底なしの親切」の心を垣間見た。父は目の身上のために一人では遠くへ行けない。だか、ら教会の近くでひのきしんをする。そその積み重ねが、たすけの手を地地域の方へ差し伸べるきっかけとなり、さまざまな場面で頼りにしてもらえる教会へとつながっていく。父の「ひのきしんの「態度」を通じて、「伏せ込む姿勢」「おたすけする姿勢」「地域「に尽くす姿勢」の尊さを学んだ。その背中を懸命に追いかけながら、「こんなとき父だったらどうするだろうか」と考え、同じ道を歩む自分がいることに気づく。実は私も「緑内障」を患っている。「見えなくなるかも「しれない」という不安を、父の姿を支えにして乗り越えてきた。「一緒につとめさせていただきます」。これが私たち父子の合言葉。私たちにとって、目の前に広がる道は、親子で歩むご恩報じの道。足元にある幸せを感じながら、今日もひのきしん人生を駆け抜けていく。(要旨)手嶋龍一のグローバルアイ2「国家」がうまく機能しない!「昨年度だけで幹部職員が30人もやめていきました。新年度になっても若手の退職申し出が止まらない。先ほどまで皆で説得に努めていたのですが……」大学院で指導した教え子の結婚式で隣り合った巨大官庁の官房長が、そう明かしてくれた。中央省庁は深夜の居残りで、いまや「ブラック霞が関」と嫌われ、国家公務員の志望者は年ごとに減っている。だが、事態は若者の役所離れにとどまらない。国家システムが崩れる兆しと見るべきで、危機はより深刻なのである。21世紀に入って国境の壁は低くなり、人々は自由な往来をより楽しむようになった。だが、新型コロナウイルスがすべてを変えてしまった。防疫体制は各国が国単位で取り組まざるを得ない。その結果、新型コロナ感染症に直面した現代の国家が非常事態にどれほど機能を発揮するか一各々の国家は、いま存在意義を問われている。こうした有事に遭遇して、わがニッポンは残念ながら国際競争で明らかに取り残されている。コロナの死者数は欧米に比べて1万人余りと少ないように見える。だが東アジアでは、台湾の10人余りを筆頭に迅速な対応で各国はコロナ禍をよく抑え込んでいる。一方で、死者の数が多い欧米・中東では、ワクチン接種に国を挙げて取り組み、イスラエルですでに6割、英国も5割の国民に接種を終え、経済活動を軌道に乗せつつある。これに対して日本の接種率は、まだ1台に低迷している。敗戦の痛手を乗り超え、国民皆保険制度を達成して世界の称賛を浴びた国とは思えない。中央と地方政府の連携が十分でなく、国家のリーダーは、厚労省、医薬品業界、医師会の既得権に阻まれ、迅速で有効な手を打てずにいる。戦後永く続いた平穏に慣れ、われわれはいつしか有事に立ち向かう覚悟と備えを怠ってしまった。だが、いまからでも遅くはない。医療崩壊を起こした地域に派遣する病院船を建造して防衛省に運営を委ね、感染症の医療・研究スタッフだけでなく、情報を収集・分析する専門スタッフを擁する国家の機関を創設して、この国に眠る底力を国際社会に示す時だと思う。