時報歌壇(2023年5月31日号) – 植田珠實 選
ベランダに朝夕睦むイソヒヨドリにどう伝えよう引越しのこと
大津市 中山美智代
ラジオよりノルウェー民謡流れきてどこか「与作」に似て口遊む
所沢市 岡田陽一
小駅出て聞き覚えある江州弁ぽあんぽあんとたんぽぽの絮
甲賀市 岨中幸男
鶴ヶ城の堀の川面に映りいるしだれ桜は水飲むごとし
ふじみ野市 酒井笑子
鬼やらい鬼面を漏るる悲しみか涙のごとき豆つぶ拾う
呉市 月原光政
倒木の打ち捨てられし峠路にうぐいすの声谷わたりゆく
高槻市 石田たまの
アスファルトのすき間にけなげに咲く花よ ごめん こんなに私は弱い
高槻市 浜辺幸子
雪の下悲しみこらえ膝かかえ春をゆめみて眠りつづける
京都市 寺澤幸子
介護5の認定を受け泣きはらす夢あきらめずリハビリ励む
所沢市 三上理恵子
嬰児産まれ私にとっては初曾孫 元気に育てさくら満開
福山市 藤井光子
かぐらうた亡き真柱の声まっすぐに透き通りくる桜のぢばに
伊勢原市 宇佐美正治
車椅子ゆうに通れる中庭の敷石道の小石掃きおり
奈良市 豊口千代子
列島を桜の便りかけのぼる転居六度目の荷をほどきゆく
宇部市 天野敬子
花が好き短歌大好き好きなものいっぱいあります夢持ち生きる
宇佐市 三好秋美
お下がりの赤いジャンパーよく似合う貴女の青春今なのね、母さん
大阪市 片野裕子
選者詠
乳を飲むみどりご眩し初夏の ひかりとなりてわれを射抜きぬ
【評】
中山さん――番で遊びに来ているのにどうしよう、引っ越すのに、と。微笑ましい、優しい一首。
岡田さん――ノルウェー民謡と与作、この意外な取り合わせ、また思わず口ずさむ結句も効いています。
岨中さん――江州弁は滋賀県、近江の言葉。ぽあん、ぽあん、タンポポの綿毛を思わすのでしょう。
次回は、7月末までの到着分から選歌。投稿は短歌3首まで。お名前(ふりがな)、電話番号、住所を付記のうえ、下記までお送りください。
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