共感疲労と「優しき心」- 視点
目を覆うウクライナの映像が、茶の間に流れ込むようになって3カ月近く経つ。いま、ニュースやインターネットのリアルな戦争報道により、精神的苦痛を受ける人が少なくない。心がざわざわしたり、胸が締めつけられたり、また「自分は何もできない」と無力感に苛まれたりと、心を痛める日が続く。
また、たとえば町の荒廃ぶりや悲嘆に暮れる被災者を見ても、戦争と自然災害のそれとでは、精神的な影響のレベルが異なるという。戦争には「人の悪意」が関与しているため、より深刻なショックを受けることが分かっている。
このように、苦しんでいる他者を見て、共感のあまり自分まで苦しくなることを「共感疲労」と呼ぶ。これにより不眠、食欲不振、血圧上昇、抑うつ状態などが引き起こされるとの知見が近年、注目されている。
東日本大震災後に設置された復興庁「心の健康サポート事業」統括責任者を務めた、心療内科医の海原純子氏は、「共感は素晴らしい資質」と前置きしたうえで、共感疲労への対応策として、同じように感じる身近な人と「気持ちを分け合うこと」と「感情の伝播」の二つを挙げる。
なかでも後者については、「近くにいる人を被災者だと思い親切にしてみる」ことを提案する。日本在住のウクライナ人は約1,900人とされる。たとえば隣人が、かの地につながる人だと思えば、温かく優しく接することができるはず。こうした優しい心が人から人へ伝わり、自らの心の回復にもつながると海原氏は強調する。
優しい心といえば、次の「みかぐらうた」が浮かぶ。
「むごいこゝろをうちわすれやさしきこゝろになりてこい」
(五下り目六ッ)
「酷い」には残酷や悲惨などの意味がある。戦争はまさに「酷い」の極み。お歌では、そうした無慈悲な、人を押さえつけ苦しめる心を使わぬよう強く否定したうえで、丸い、包み込むような「優しき心」になるよう促されている。
日々のおつとめを通して戦火の鎮まりを祈るとともに、さまざまな理由で心を痛める身近な人に、「優しき心」で接することを、あらためて心掛けたい。
(松本)