危機のなかの太平洋同盟 – 手嶋龍一のグローバルアイ9
東京とワシントンを結ぶ安全保障同盟は、半世紀を超えて太平洋の波を穏やかにしてきた。だが、太平洋同盟の効力が次の半世紀も同じように続く保証など何処にもない。1月21日にオンラインで実施された岸田総理とバイデン大統領の日米首脳会談は、東アジアの安全保障環境が一段と厳しさを増していることを窺わせるものとなった。
この日米オンライン首脳会談で、バイデン大統領は「日米安全保障条約の第5条を尖閣諸島へ適用し、揺るぎない対日防衛を約束する」と述べ、尖閣諸島を含む沖縄などに第三国が侵攻した時には、日本防衛の義務を果たすと表明した。表向きは至極あたり前の見解をこれまで通り繰り返したようにみえる。その証拠に、日本のメディアも取り立ててこのくだりに特別な解説を試みてはいない。だが、このバイデン発言にこそ現下の東アジアの危局がくっきりと映し出されている。
アメリカの当局者は敢えて口にしないのだが、この大統領の対日約束には重大な前提が省かれている。中国が日本固有の領土である尖閣諸島に侵攻した時、日本が先んじてこれを撃退する意思と行動を示した場合に限って、米国も部隊を派遣して救援に駆けつけるというのである。日本が自国を守る行動を示さないのに、米大統領とて自国民の大半が名前も知らない無人島に自国の若者を赴くように命じ、米中戦争の危険を冒すわけにはいかないだろう。だが、在日米軍の部隊と艦艇が真っ先に尖閣諸島に乗り込んでくれると安易に思い込んでいる人が日本に皆無とは言えないだろう。
台湾海峡を望む尖閣諸島こそ東アジアの安全保障の要石なのである。それゆえオバマ民主党政権の時代までは、米国の安全保障当局者は尖閣防衛を容易に明言しようとしなかった。安全保障同盟という一片の紙切れで日本の安寧が担保された幸せな時代は過去のものとなりつつある。東アジアの新たな戦争は断じて許さないという日本の意志こそが中国を制してみせる。2022年は日本が率先して戦いを未然に封じる抑止力を高める節目の年とすべきだろう。