天理時報オンライン

生きる美しさをその身に湛えて


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暖冬のせいか、今年は例年に比べて桜の蕾が早く膨らんでいる気がします。もうすぐ列島に線を描くように、一斉に北に向かって咲き進みます。

日中も咲いているのに、わざわざ夜にも観賞する花といえば、桜くらいしか思い浮かびません。明るく咲き誇る昼の姿と違って、夜は別の花のごとく、妖艶な趣があるから不思議です。

「花は桜木、人は武士」。日本人は、その表情豊かな咲き方に人生を投影してきました。忠臣蔵の、浅野内匠頭の切腹シーンでも、散りゆく桜が場面に花を添えます。守るべき尊厳と残された者へ託す思いを象徴するかのように、桜ははらはらと散ります。

出会いと別れ。喜びと悲しみ。ちょうど年度替わりの時季に訪れるさまざまなシーンを、桜の花は毎年見守ってきました。子供の成長の節目を喜ぶ家族の肩にも、逆境にもめげず歯を食いしばって頑張っている人々の肩にも、桜の花びらは言わず語らず舞い降りることでしょう。生きる美しさを、その身に湛えながら。

Cha