曖昧さへの感動が人生を豊かにする 「日本学術振興会育志賞」受賞・櫃割仁平さん – ようぼく百花
2024・3/13号を見る
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京都大学大学院で心理学を研究している櫃割仁平さん(28歳・北三陸分教会ようぼく)はこのほど、日本学術振興会が主催する第14回「日本学術振興会育志賞」を受賞した。平成22年に創設された同賞は、将来、日本の学術研究の発展に寄与することが期待される、優秀な大学院博士後期課程の学生に与えられるもの。
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岩手県にある教会で生まれ育った。小学生のころから勉強好きで、中学生のときに担任の教師に憧れ、教員を志すように。天理高校在学中は、教職を目指して受験勉強に明け暮れた。
その後、京都教育大学で教育心理学を専攻し、関心のあった「感動体験が人に与える影響」について研究を始めた。音楽や絵画など何にでも感動を覚えるほうだったという櫃割さん。研究の動機について「実体験として、感動には人の価値観を変えるほどの力があると感じていた。その感覚を学問的に解明したかった」と振り返る。
特に注目したのは、芸術鑑賞における感動体験だ。アンケート調査をもとに研究を進めるなか、その面白さに魅了され、「もっと心理学を突き詰めたい」と、大学卒業後は京都大学大学院へ進んだ。
「京都大学総長賞」も
国内の大学や学術団体の推薦を受けた候補者の中から、書類や面接などの選考を経て受賞者が決まる「日本学術振興会育志賞」。今年度は170人の候補者の中から18人が受賞した。
櫃割さんの研究テーマは「俳句の曖昧性が審美性に与える影響の心理・神経・生理メカニズムの解明」。17文字という限られた情報から生まれる俳句の曖昧性が人の美的感情に与える影響について、俳句鑑賞者を対象とする心理実験などをもとに解明したもの。
「先行き不透明な社会状況が続くなか、人々は物事に白黒をつけたがり、曖昧なものを受け入れにくくなっているように感じる。俳句のような曖昧なものに美しさを感じるメカニズムの解明は、人が豊かな人生について考えるうえでのヒントになると思う」
これまでの道のりは決して平坦ではなかった。大学院進学後、俳句を題材にすると定めたものの、先行事例がないため実験がうまくいかないことも少なくなかった。
そんななか、新型コロナ感染症が流行。実験すらままならなくなり、やっとの思いで書き上げた論文を学術誌に投稿するも不採択が続いた。それでも、研究資金を集めるためクラウドファンディングを行うなど、挑戦を続けてきた。
大学院へ進んで5年。こうした不断の努力が実を結び、今年度の「京都大学総長賞」受賞。さまざまな困難があっても研究を続けられた理由について、櫃割さんは「とにかく研究が楽しい」と、屈託のない笑顔を見せる。
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2月28日、櫃割さんは東京都の明治記念館で行われた第14回「日本学術振興会育志賞」授賞式に出席。当日は秋篠宮ご夫妻が臨席されるなか、賞状と賞牌を受けた。
時間を見つけてはおぢばへ足を運び、親神様・教祖に日々の感謝を伝えている櫃割さん。4月からは美学研究の本場であるドイツへ渡り、さらなる研究を進める。
「今回の受賞は、親神様・教祖はもとより、家族や周囲の人たちの支えがあったおかげ。これからもお世話になった人たちに喜んでもらえるよう、楽しみながら研究を進めていきたい。その先に、社会の役に立つような成果を挙げられたらうれしい」と語った。