すべて人の手で行う「田植え」- おやさと瑞穂の記 その3
おやしきの北東には、教祖のご在世当時の風景を彷彿させる豊かな田園風景が広がり、親神様にお供えするお米が昔ながらの方法で栽培されている。前回の「苗代づくり」に続いて、今回は「田植え」を紹介する。
4月30日に苗代に蒔かれた種籾は、6月初旬には15センチほどの緑鮮やかな苗に成長した。その間、本田では田んぼをつくるための「田起こし」が行われていた。
実は、稲の刈り取りを終えた冬の間、この田では、親神様にお供えする大麦や冬野菜が育てられ、空いている余地にはレンゲソウの種が蒔かれる。この麦や野菜の収穫後に残った堆肥や残渣が肥料となり、レンゲソウが緑肥となって稲の成長をたすけるので、稲を育てるときには、これといった肥料を施す必要がないのだという。
田んぼづくりは、まず田をトラクターで耕して、水を引き、畦切り、畦こね、畦塗といった防水作業を行ったうえ、代かきをして平らに均し、水位を調整すれば完成。いよいよ田植えに取りかかる。
ここでの田植えは、昔と同じやり方で、すべて人の手で行うので時間と労力を要する。しかし、その分、管内学生や本部勤務者、またおやさとふしん青年会ひのきしん隊や少年会、直属ひのきしんなど連日、大勢の人たちが代わる代わるひのきしんに駆けつけて行うので、とても賑やかだ。6月16日には天理小学校5年生の児童たちが田植えを体験、子供たちの元気な声が響いた。
苗は3本を束ねて1株にして植える。ここでは、機械で行う一般的な田植えと比べて、苗と苗の間隔を1.5倍ほど広く取っている。このことについて、教会本部管財部の担当者・森本孝一さんは「これは病気対策です。稲は成長すると扇状に分蘖して広がるので、間隔が狭いと稲同士ぶつかり合って風通しが悪くなり、これが病気の原因となります。ここでのお米づくりは農薬を使わないので、こうした病気から守るための工夫を凝らして育てています」と語った。
森本さんの説明によると、植えられた苗は、だいたい1株で10本から20本の茎に分蘖し、その1本の茎の穂先に100粒ほどのお米が実るので、1株の稲から、およそ1,000粒以上のお米ができるという。その話を聞いて『稿本天理教教祖伝逸話篇』の「30 一粒万倍」のお話を思い出した。
教祖は、あるとき一粒の籾種を持って、飯降伊蔵に向かい、「人間は、これやで。一粒の真実の種を蒔いたら、一年経てば二百粒から三百粒になる。二年目には、何万という数になる。これを、一粒万倍と言うのやで。三年目には、大和一国に蒔く程になるで」と、仰せられた。
森本さんは毎年、この一粒万倍のご守護を直に目にし、親神様のお働きを一層感じていると語る。
田んぼ一面に植えられた苗は、これから夏にかけて急速に成長していくが、無事に秋の実りを得るためには、丹精のさまざまな労苦が必要となる。教祖が仰せになる「真実の種」も、蒔くだけでなく、懇ろに丹精してこそ実を頂けるのだと思いを新たにした。
(文=諸井道隆)
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