世界的な分かち合いへ – 視点
新型コロナウイルスのワクチン接種が加速している。
この1年余りで四度の流行の波に見舞われた日本は、ワクチン調達に手間取ったものの、2月以降は医療従事者、高齢者、基礎疾患をもつ人などへと、任意による接種が順調に進んでいる。副反応の不安は残るが、感染抑止の“切り札”と期待されるワクチンへの注目が一層高まっている。
ワクチン発見は、致死率の高い天然痘を端緒とする。18世紀末、英国の医師ジェンナーが「牛痘種痘法」を考案した。当時、乳しぼりをする女性に牛特有の天然痘の発疹が見られたが、なぜかヒトの天然痘には感染しないことが知られていた。ジェンナーは女性たちの発疹の液を採取し、その苗を子供の腕に接種したところ、ヒトの天然痘には感染しないことを突きとめた。人類初のワクチン誕生である。その後、ジェンナーは特許を取らなかったため、種痘技術は瞬く間に世界へ広がった。
もちろん日本にも伝わっている。幕末の嘉永2(1849)年、医師で蘭学者の緒方洪庵は、大坂で蔓延する疱瘡(天然痘のこと)を抑えるため、牛痘苗を使う方法をいち早く取り入れた。当初は「牛になる」と全く相手にされなかったが、粘り強く正しい情報発信に努め、やがて官許が下り、近畿一円にワクチンを供給する分苗所が広がった。
明治5(1872)年には奈良県下13カ所(丹波市〈現・天理市〉を含む)で実施する旨が布告され、8年の上半期までに県内で約1万人が接種を受けたという(『天理教事典』から)。
6月13日に閉幕したG7サミット。対面では2年ぶりとなる先進7カ国の首脳は、パンデミックからの復興などを集中審議した。その課題の中に、ワクチン供給の国際的協力体制があった。コロナ禍にあって浮き彫りとなった世界的問題の一つは「格差」だ。「修理肥」としてのワクチンは、一部に寡占されることなく広く分かち合ってこそ、世界人口の集団免疫の獲得に寄与する。事実、ジェンナーや緒方洪庵ら多くの人々の普及の努力により、天然痘は1980年に根絶宣言された。今日の世界的危機からの復興は、あらゆるレベルでのたすけ合いと分かち合いを通じて果たされるだろう。ワクチンは、その象徴かもしれない。
(ま)