ネットリテラシーをめぐって – 視点
最近「リテラシー」という言葉を聞くことが多い。本来は「文字を読み書きする能力」のことだが、「物事を使いこなす能力」の意味でも使われる。いま、インターネットを正しく使いこなすための知識や能力、つまり「ネットリテラシー」に関心が寄せられている。そんななか、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)での誹謗中傷の問題が浮かび上がる。
SNSは本来、知らない者同士が情報を共有したり、画像や動画を交換して交流を深めたりする便利なツールだ。たとえば孤立する人が、それによって大勢の人とつながるなどのメリットがある。
一方、使い方によっては諸刃の剣ともなる。昨年5月、テレビ番組に出演していた人気女子プロレスラーがSNSで誹謗中傷されたあと自殺した。その後、警視庁は、SNSで数回にわたって彼女を中傷したとして、侮辱罪容疑で大阪府の20代男性を書類送検した。
最近では、ポータルサイトの「ヤフージャパン」が、ユーザーが自由に書き込めるコメント欄(ヤフコメ)の中で、一定数の中傷や差別的な投稿があれば人工知能(AI)が自動的に非表示にする機能を導入した。また法務省は、深刻化するネット上の誹謗中傷対策として、刑法の侮辱罪の法定刑を見直し、懲役刑を導入する方針を固めたという。
SNSが普及するにつれて、子供から大人まで世界中の情報を手に入れ、いろいろな議論を交わすようになった。しかし時には、他人の意見に対し、人格攻撃を含んだ誹謗中傷を展開する。その原因の一つが、SNSの匿名性であろう。相手の顔が見えないことでエスカレートするのだ。お互い顔を合わせていれば、相手の悲しみや怒りを察知して、それ以上の攻撃的な言動をやめることもあるだろうが、SNSではそれが分かりにくい。いずれにしても、死を選ぶほど人を追い詰めることは、深刻な社会的病理と言えるだろう。もしかすると、人類が長い時間をかけて築き上げた対人関係の基本的ルールを、SNSが変えてしまうかもしれない。
人間に与えられた知恵のご守護の結晶の一つともいえるインターネット。有効に使えば、人と人とのつながりのうえで素晴らしい成果を生み続けていく。慎みと優しさを忘れずに、使いこなしたいものである。
(安藤)