純粋に「一生懸命」に – 視点
一年回顧には気が早いが、今年の10大ニュースに、大リーグの大谷翔平選手の偉業が入るのは間違いないだろう。
ア・リーグMVP(最優秀選手)に満票で選ばれたニュースは、太平洋を越えて大きな話題となった。投打の〝二刀流〟という前代未聞のスタイルで、野球の発祥地アメリカを熱狂させたことは、日本人として誇りに思う壮挙だ。昨年来のコロナ禍で、世界中に不安が広がるなか「2021年は本当に特別な年だったため、歴史的偉業を評価することが大事」「国際的スターが完璧なタイミングで現れた」として、大リーグコミッショナーのロブ・マンフレッド氏は7年ぶりに特別表彰したほどだ。
大谷選手の大躍進の背景を探るマスコミ報道は後を絶たない。なかでも、先ごろのNHKの特集番組は、少年期からの心の成長にスポットを当てていて興味深かった。
小学2年生で野球を始めた大谷選手のコーチは父親だった。元社会人野球の選手で、リトルリーグの指導者として息子に手ほどきをした。
父と子は、野球の交換ノートを通じて“言葉のキャッチボール”を続けた。その中で父が繰り返し強調したのは、「一生懸命」だった。元気に声を出す、キャッチボールも走ることも、「誰でも最初は下手。でも、今できることを一生懸命にやる。地道に一生懸命やれば、成長につながり、必ず良いことがある」。それは父の信念だった。
「一生懸命」の姿勢は日常生活にも及んだ。花巻東高校時代、大谷選手は一流になる成長課題の一つに「ゴミ拾い」を挙げた。「ゴミ拾いは“運”を拾う」という野球部監督の教えを素直に実行し、今も続けている。プレー以外の謙虚で衒いもない振る舞いや温和な人柄も、国や世代を超えて多くの人々を魅了した。
何事も効率重視の世の中で、少年のように純粋に野球を楽しみ、技術と精神を少しでも成長させようと努力する大谷選手は、いわば愚直なまでの「一生懸命」の大切さを再認識させてくれたように思う。
「おさしづ」に、「純粋一つから始めば、純粋一つの道と成る」(明治23年5月15日)とある。一年を締めくくる前に、新年に向けて、純粋に「一生懸命」になることをお互いに見いだしたい。
(松本)