天理時報オンライン

オリジン(起源)を忘れなければ、どんな時代も真っすぐに歩いていける。


スペインのバルセロナにある世界遺産「サグラダ・ファミリア」。彫刻家の外尾悦郎さんは、この聖堂の建築に40年以上携わってきました。その中で、天才建築家アントニ・ガウディが残したメッセージを次々と読み解き、その遺志をいまに伝える人物として尊敬を集めています。

そんな外尾さんが、客員教授を務める天理大学で行った特別講演の内容に加筆し、一冊の本にまとめた『時の中の自分――サグラダ・ファミリア「石のマエストロ」魂をはぐくむメッセージ』が、このほど刊行されました。

時の中の自分――サグラダ・ファミリア「石のマエストロ」魂をはぐくむメッセージ

外尾悦郎サグラダ・ファミリア聖堂彫刻家

定価=1,540円(本体1,400円)
A5判並製/112ページ/オールカラー

Webストア:https://doyusha.net/SHOP/9784807306534.html

聖堂の側壁に、果実と葉の彫刻を制作したときのこと。ガウディ本人の指示として伝わっていたのは、「屋根の上に籠に盛られたフルーツを置き、大窓の周りには数百のフルーツと葉を散りばめよ」ということだけでした。外尾さんは、果実と葉が何を象徴しているのか毎日考え続け、ある日、日本語の「言葉」という文字から、次のことに思い至りました。

「若い人たちは青い魂を持っている。まだ柔らかく、傷つきやすい果実。果実を守り育てるのは葉の役目。同じように、人間の魂を育てるのは言葉の役目。……若い魂に必要なのは、根っこ、すなわち心とつながっている生気あふれる言葉。それを心から心へ伝えるのが『言の葉』の真の機能であり、重要な働きなのだ。

やがて、魂は年を取るとともに色づき、人生の最後を迎えたときに実りきって天に召される――そのことを、ガウディは果実と葉に託したのだと思う」

ガウディは、自然から多くのことを学んだといいます。そして「オリジナリティーとは、オリジン(起源)へ還ることである」と言いました。人間は自分では何も生み出せない。自然の中に秩序を求め、そこから発見するだけであると。

「われわれ人間は、それぞれの時代において、時間と空間の中を歩いている。しかし、オリジンを忘れなければ、どんな時代でも同じように、時の中を真っすぐに歩いていけるはず。まずはオリジンへ還ること。オリジンは自然の中にある」

外尾さんも、こう記しています。そして、講演の最後を次のように締めくくりました。

「大聖堂は彼の芸術作品ではなく、そこに集まる人々の心を育てるための道具なのだ。……自分たちの人生は100年に満たないものかもしれないが、それよりも、何百年も生きるサグラダ・ファミリアというものを生んでくれたガウディに感謝しよう。そして、それを大事に生かし続けること、世代を超えて生かし続けること。

戦争のない平和な時間を、何百年も世代を超えて育ててきた人類がいたという歴史。それを、もしつくり上げることができたら、サグラダ・ファミリアやほかの建築を造るより、もっと大事なことではないだろうか。

われわれは力を合わせて、ずっと平和を続けなければならない。その象徴としてのサグラダ・ファミリア」