北方の脅威に結束する西側同盟 – 手嶋龍一のグローバルアイ22
韓国の尹錫悦政権は、元徴用工の問題で被告となってきた日本企業に政府系の財団が賠償を肩代わりする解決策を示した。尹大統領は、今回の決断について閣議で「日韓の経済・安全保障・文化の交流を活性化することは切実な課題だ」と訴え、韓国の国内になお根強い反対論を懸命に説得しようと努めている。
日韓の政府は敢えてこの時期に、両国の喉元に突き刺さったトゲを抜いたのだが、それに心から安堵しているのが米国バイデン政権だ。中国が力を背景に台湾への攻勢を強め、東アジアの安全保障環境が一段と厳しさを増すなか、日韓関係が戦後最悪といわれた状況にあることを憂慮していたのだろう。米国を要とする“東アジア三角同盟”の一辺である日韓の間柄が不安定では、北朝鮮、ロシア、中国に付け入る隙を与えてしまう。
そんな現状を衝くように、朝鮮労働党は、中央軍事委員会の拡大会議で「米韓の戦争策動に対処し、戦争抑止力を効果的に進めるため、実践的な措置を決めた」と明らかにした。米韓の合同演習「フリーダム・シールド」が始まり、何らかの対抗措置をとると示唆している。具体的な対抗策には触れていないが、固体燃料を使う大陸間弾道ミサイルの発射や核実験などを視野に入れているのだろう。
アメリカはいま、台湾海峡で中国と対峙し、ウクライナの戦域でロシアと対決し、苦しい二正面作戦を強いられている。こうした情勢下で、北朝鮮が攻勢に出れば、米国の力が殺がれるはずと、中ロ両陣営は暗黙の支持を与えたのだろう。ユーラシア大陸で中国、ロシア、北朝鮮が軍事的にも連携を強め、これに対してアメリカ、日本、韓国は結束せざるを得ない構図が際立ってきている。
緊迫の度を増す東アジアにあって、米国、日本、韓国は、歪んだ三角形のまま推移してきた。だが、同盟の要、米国がウクライナ戦域に持てる力の多くを割かざるを得なくなっているいまこそ、日本は従来の受け身の発想を捨てて、効果的な抑止力を発揮できる“三角同盟”を目指し、主導的な役割を果たす時だ。