時報歌壇(2月23日号) – 植田珠實 選
春を待つ畝々霜の薄化粧どことなく亡き母に似ている
鴻巣市 三浦忠裕
人間の条理ひとすじ生きた医師 中村 哲の利他なる精神
呉市 月原光政
冬天へ齢わすれてハーモニカに湧き出す歓喜バッハを吹けば
伊勢原市 宇佐美正治
紫の教旗はためく青空に佳き年であれ 寅年の春
甲賀市 山田婦美子
教会の汝のことばは胸に滲む時をり母かと思ふときあり
高槻市 石田たまの
書き初めは元旦祭の祭文に心をこめておちかいをする
天理市 井上弘子
病得て帰参かなわぬ身になりてまなうらに立つ神苑の朝
宇部市 天野敬子
病棟の窓に我が家の屋根が見え明日の手術に小雪ちらつく
伊勢市 久保眞二
冬牡丹の可憐にひらく庭園に雨粛々と年改まる
福岡市 山口己津夫
集落に何を求めてくる鹿の夜のしじまに足跡残し
熊野市 福山久美子
鈍色のあわいに覗く碧き空コントラストは冬天の顔
八尾市 伏田和子
こんな時母ならきっと言うだろう「神さんは見たはります」と
甲賀市 岨中幸男
聴き役に徹しデイサービスに行く若き日の栄光いくたびも聞き
市川市 小松富子
リハビリで声を掛け合いやる気だしリフレッシュしよう身体の為に
所沢市 三上理恵子
人生おもしろいか山茶花が聞くまあまあと言えばそれでいいと言う
宇佐市 三好秋美
睦まじく生き生かされて父と母結婚七十三年目の桜待つ春
横浜市 松尾三恵子
選者詠
食べたくないのといふ母を
素麺ゆでる湯気がなぐさむ
【評】
三浦さん
真冬の霜ではない春の薄霜がお母さまを思わす。淋しさと母を恋う気持ちをお歌に。
月原さん
アフガニスタンで用水路を作り、砂漠を緑に変えた医師・中村哲。弔歌でもあります。
宇佐美さん
久しく宇佐美さんのハーモニカを聴いていません。早くお逢いできる日を心よりお待ち申し上げます。
次回は、4月末までの到着分から選歌。投稿は短歌3首まで。お名前(ふりがな)、電話番号を付記のうえ、下記まで。
〒632‐8686 天理郵便局私書箱30号「時報歌壇」係
Eメール=[email protected]