医療と信仰の両面から“人だすけの道”を歩む – ヒューマンスペシャル
2023・7/12号を見る
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毎日の布教実動欠かさない“ようぼく医師”
永吉美砂子さん
61歳・西北分教会教人・福岡県宗像市
(福岡県障がい者リハビリテーションセンター センター長)
医療の”第一線”に立ちつつ、毎日の布教実動を欠かさない女性ようぼくがいる。
「福岡県障がい者リハビリテーションセンター」のセンター長を務める永吉美砂子さん(61歳・西北分教会教人・福岡県宗像市)は、身体障害者や高次脳機能障害、発達障害がある人の診療・リハビリテーション(機能回復訓練)を行う脳機能の専門医だ。平成28年、同センター長に就いて以降、利用者の能力や目標に合わせた社会復帰をサポートする、独自の「リハビリテーションプログラム」の導入などに手腕を発揮している。
医師として多忙を極める一方で、10年前の教祖130年祭へ向かう旬に始めた、出勤前と退勤後の”すき間時間”を利用した神名流しとにをいがけチラシの配布も欠かさない。
心を入れ替えることで、誰もが楽しく日々を暮らすことができる――。臨床の現場で”見えにくい障害”に苦しむ人々に寄り添いながら、地域でさまざまな”難渋”を抱える人にも、教えを伝えようと布教実動を続ける永吉さん。ようぼく医師として、医療と信仰の両面から人だすけの道を歩む、その思いに迫った。
心と脳の関係を解き明かし”難渋”抱える人を救いたい
某月某日午前7時、福岡県宗像市。会社員が行き交うJR東郷駅前に、「よろづよ八首」を唱和する澄んだ声が響く。
「なむてんりわうのみこと――」
神名流しを終えて45分後、ようぼく医師の永吉美砂子さんは、隣の古賀市にある「福岡県障がい者リハビリテーションセンター」で業務開始。身体障害のほか、高次脳機能障害や発達障害など“見えにくい障害”に苦しむ人の診療やリハビリテーションを行っている(コラム参照)。
「ようぼくとして、障害がある人たちの心を受けとめ、真摯に寄り添いたい」
出勤前に駅での神名流し10年
毎朝の布教実動を始めたのは10年前。教祖130年祭へ向かうさなか、出勤前に駅前で神名流しをすることを心に定めた。
数日後、不思議なご守護が現れる。父親に「肺がん」が見つかったが、早期発見が功を奏し、手術を受けて1カ月後に退院することができた。
「親神様の鮮やかなご守護と、一層の成人を促される親心を実感した」
“旬の風”の後押しを受けた永吉さんは、以後も神名流しを続けた。当初は通行人の冷たい視線を感じることも少なくなかったが、やがて、あいさつしてくる人も現れ、時には悩み事を相談されることも。
「ある日、駅近くの喫茶店のオーナーから『ここの駅は自殺者がいないのよ。天理教さんのおかげね』と話しかけられた。地道に実動を重ねれば、地域でさまざまな”難渋”を抱える人のたすかりにつながるかもしれないと思った」
また、布教実動の傍ら『天理時報』の手配りひのきしんに勤しむ中で、地域の教友同士のつながりを持つ大切さを感じた永吉さんは、自ら企画した「ようぼくの集い」を自宅で開催。地域におけるたすけ合いのネットワークづくりにも積極的に取り組んできた。
さらに、自殺者が増える社会状況を憂い、「少しでも踏みとどまる人がいてくれたら」と、仕事帰りににをいがけチラシ20枚を毎日配布。帰宅後も、子育てに悩む知人の相談に乗るなど、おたすけへの思いを行動に移していった。
「たすけを求める人に、お道の教えを伝えられたときが一番うれしい」
永吉さんは、休日も信仰実践を欠かさない。つくし・はこびを心がけ、休日の半分と有給休暇の大半をお道の御用に当て、おぢば帰り、所属教会の月次祭参拝、教区・支部行事への参加にも積極的だ。
「元気で幸せな生活を送れることが本当に有り難い。信仰実践を積み重ね、”先の楽しみ”を持って通れば、どんなに忙しい日が続いたとしても、親神様が結構にお連れ通りくださると確信している」
母の出直しを機に教えを求め
高校生のとき、学校の先生や両親に勧められて産業医科大学へ進学。卒業後、リハビリテーション科専門医として県内の病院で勤めるようになった。
信仰2代目。昭和50年、母・佐枝子さんが、自身の身上や、夫が道楽で借金を繰り返す事情に直面したとき、お道の信仰と出合う。永吉さんは学生時代、母親から教えを聞かされたが、当時は信仰を真剣に求めようとはしなかった。
平成11年、佐枝子さんが「肝臓がん」で出直す。”家族の節”に長年向き合ってきた、信仰熱心な母が出直したことがショックで、「親神様・教祖の思召は、どこにあるのか」と思いを巡らせた。そして、まずは教えを学び直そうと、自ら信仰を求めるようになる。
所属教会へ足を運ぶことから一歩を踏み出した。その傍ら、父親の借金を返すために懸命に働き、「新築の家が3軒建つくらいの金額を返済した」。
一方、父親のことはどうしても許せず、憎しみだけが募った。それでも、お道の信仰にすがり、所属教会の会長から諭される中で次第に心の向きが変わる。
佐枝子さんの出直しから7年後、父親と向き合うことを決心し、自宅を増築して老人施設から父を迎え入れた。以後、父親が93歳で出直すまでの13年間、家族としての幸せな時間を過ごすことができたという。
「信仰を求めていなければ、私の心の向きは変わらず、父への憎しみで心を倒す日が続いていたかもしれない。”家族の節”を通じて、親神様・教祖から大切なことを気づかせてもらった。お道の教えをもとに心を入れ替えることが、すべてのたすかりにつながる。この信仰の有り難さに感激し、神様の存在を身近に感じるようになった」と振り返る。
心の入れ替えが復帰の第一歩
「適切なリハビリテーションと”心の向きの転換”によって楽しく暮らせることを、障害がある人に知ってほしい」
永吉さんが考案した「リハビリテーションプログラム」は、利用者一人ひとりに”オーダーメードのサポート”を提供するもの。自己実現を諦めず、リハビリテーションに取り組める環境を提供することで、利用者の4割超が社会復帰しているという。
脳機能の専門医として第一線に立つ中で、「かしもの・かりもの」の教えについて思案を重ねる。
「画像所見では異常がないのに、身体の痛みを訴える人がいる。『病の元は心から』と教えられるように、心の入れ替えによって、脳から身体に発せられる命令も変化する可能性があるのでは」
1年前、センター内で楽器の演奏会を催した。利用者がマヒの無いほうの手足でドラム演奏などを練習し、披露する場を設けることで、達成感と希望を持てるようにするのがねらいだった。
「障害のある人が『できることがたくさんある』と感じて、社会復帰する姿を数多く見てきた。心の入れ替えにつながるきっかけを提供し、未来への第一歩を踏み出してもらうことが楽しみ」と語る。
とはいえ、全員が社会復帰できるわけではない。そうした人が”生きる力”を身に付けるために、社会復帰を目標とする「医療の視点」だけでなく、どうすれば幸せになれるのかを考える「お道の視点」が欠かせないと永吉さんは強調する。
「リハビリテーションがうまくいかず、将来に不安を抱える利用者に、『これからは、あなたと同じように悩んでいる人の手助けをしてほしい』と伝えている」
◇
現在、国や県の要請を受け、講演活動に取り組んでいる。時には、福岡教区布教部主催のシンポジウムにパネリストとして登壇し、信仰実践を発表することも。
ようぼく医師として長年、臨床の現場で尽力してきた永吉さんは、年祭活動に入ったいま、新たな目標を掲げる。
「『このよふのもとはじまりのねをほらそ ちからあるならほりきりてみよ』(おふでさき第五号85)とお教えくださるように、脳機能を専門とする医師として、元初まりの教えをもとに、心と脳の関係を研究することが、私に与えられた使命だと思っている。これからも医療と信仰の両面から人だすけの道を歩み、さまざまな”難渋”を抱える人たちに寄り添っていきたい」と語った。
文=久保加津真
COLUMN
「高次脳機能障害」とは、病気や交通事故などで脳の一部を損傷し、脳の認知機能に障害が起きた状態のこと。
「福岡県障がい者リハビリテーションセンター」は、利用者の自立した生活と地域社会への参加を支援している。高次脳機能障害や発達障害などにより、社会復帰を諦める人が少なくないなか、利用者の能力や目標、QOL(生活の質)に合わせた社会復帰を想定し、実践的なプログラムを提供している。