親のまなざしと同じ方向に – 視点
2023・7/12号を見る
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東京国立近代美術館で開催中の「ガウディとサグラダ・ファミリア展」。「未完の大聖堂」と称されるサグラダ・ファミリアの建築に心血を注いだ天才建築家、アントニ・ガウディの関連資料など約100点が展示されている。
その中に、聖堂を飾る彫刻造りに半世紀近く打ち込んだ外尾悦郎氏の作品も。世界遺産「生誕の門」の中央に配置された9体の石膏彫刻「歌う天使たち」の前には、人垣が絶えない。
外尾氏は、言わずと知れた海外で活躍する高名な日本人の一人。異邦人でありながらもガウディの遺志を受け継ぎ、世界に類を見ない聖堂の建築をリードする「石のマエストロ(巨匠)」だ。
その活躍の背景には、熱心なお道の信仰者だった母・久美江さんの生きざまがある。夫に先立たれ、女手ひとつで4人の子供を育て上げた母。「小さな体には重過ぎるほどの荷物を背負いながらも、明るく前向きに人生を通ってくれました。そして私たちには、事あるごとに『謙虚』と『感謝』の大切さを諭してくれました。この母の教えは、私たちの体にも染み込んでいて、そのおかげで、いまの自分があると感謝しています」と、氏は近著『時の中の自分』(道友社刊)で述懐している。
聖堂の主要な彫刻を任されるなか、大きな壁にぶつかる。ガウディの思想を継承しようにも、スペイン内戦で図面は焼失し、模型も破壊されていたのだ。煩悶の末、二つの手がかりをつかむ。一つは「オリジン(起源)へ還る」、もう一つは「ガウディと同じ方向を見る」。
ガウディが自然観察を通じて建築原理を見いだしたように、氏は「オリジンは自然のなかにある」と気づく。そして、もう一つの手がかりは苦悶のさなかに閃く。ある日、ガウディはどこを見ていたのだろうかと思った。「ガウディの見ている方向を見ようとした瞬間に、一つになれた気がした」という。
この二つの手がかりは示唆に富む。道の信仰者にとって「天の理」がオリジンだろう。そして、その教えを人間に伝えられた教祖は、今も世界一れつ漏れなく“たすけのまなざし”を注がれている。その親のまなざしと同じ方向に、子として目を凝らし続けているかと自問する中で、現代社会の見えにくい難渋の諸相も、よりリアルに心に映るのではないだろうか。
(松本)