特別インタビュー 台湾布教志した女性に惹かれ – 南華大学国際事務・企業学科教授 邱 琡雯さん
2023・9/6を見る
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志高く台湾の地で布教に奔走した女性たちの歩みに関する研究が、台湾の学会で注目されている。女性が国際間を移動することによる本人への影響を解明する一環として、台湾布教を志した日台の女性布教師について研究している南華大学国際事務・企業学科教授の邱 琡雯(きゅう しゅくぶん)さんが、昨年に続いて今夏も、天理大学おやさと研究所の受託研究員として来訪した。邱さんに、本教に関心を持ったきっかけや、お道の女性研究の要点などについて話を聞いた。
――天理教と出合ったきっかけは。
6年前、南華大学近辺でフィールドワークをしていたときに、天理教嘉義東門教会の大林布教所を訪問しました。私が訪れた日は、ちょうど布教所の月次祭の日だったのですが、林櫻(リンイン)布教所長(故人)が親切に応対してくださいました。
その後、林布教所長との関わりの中で、台湾には女性の天理教布教師が多数いることを知りました。国外へ渡った台湾人女性の研究を続けてきた私にとって、天理教の女性布教師の足跡や心情はとても興味深く見えました。そこで、天理教の女性布教師を研究しようと決めたのです。
以後、台湾人の女性布教師を取材して研究を進めましたが、彼女たちの背景や心境の変化の解明には至りませんでした。そこで「女性布教師の“聖地”で、実際に彼女らの軌跡をたどり、より詳細な資料をもとに研究したい」と思い、昨年6月に天理大学の受託研究員として初めておぢばを訪れたのです。
今年の夏は、日本から台湾へ渡った女性布教師の取材と研究のために天理を訪問しました。
――研究のメーンテーマである「女性布教師の信仰と国際移動経験」について、分かりやすく教えてください。
私の研究は、「女性が国際間を移動することによってもたらされる本人への影響の解明」を目的としています。昨年は、台湾人の天理教女性布教師が「おぢば帰り」をすることで、どのような影響があったのかを調査しました。
当時の国際間移動は決して容易なものではなく、まして女性は家庭での役割が最も重要視された時代なので、女性が信仰のために出国することは稀でした。
彼女たちは、おぢば帰りをする中で、修養科を志願したり、団参を率いたりと、信仰するうえでのさまざまな立場を経験します。そうすることで、自己表現の場を獲得し、視野を広げ、心身の癒やしを得たのです。これらのプロセスを経て彼女らは成長し、主体性を構築していきました。林所長をはじめ、これまで出会ってきた女性布教師の方々から感じた芯の強さには、このことが関係している気がします。
また、彼女たちは日々の暮らしの中で、労働や家庭生活といった「世俗」の領域と、信仰という「神聖」の両方の領域を行き来することで、自己の確立とともに、心理的な安定を得るうえでのバランスを取ることができていたと考えます。
親神様・教祖のお導きを感じ
――天理に長く滞在し、どんな印象を持ちましたか?
とても親しみやすく、心惹かれる場所だと思いました。というのも、南華大学のある嘉義県も、天理に似て歴史を感じる建物や景観が多く残っており、通じるものがあったからです。初めて本部神殿を訪れ、東回廊から見える大国見山を見たとき、「ふるさとに帰ってきた」と感じました。それからは、週に何度も神殿で参拝し、親神様・教祖に研究の進捗状況や日ごろの感謝を申し上げています。
また親里では、研究に必要な人や資料を次々とお引き寄せいただきました。印象的だったのは、偶然立ち寄った防府詰所で、台湾布教の先駆けである古谷まつの子孫に当たる方に出会えたことです。身元を明かすと、彼は取材に応じてくれそうな方を紹介し、さらに関連資料をも提供してくださいました。
このような不思議な巡り合わせが何度も起こるうちに、「研究がスムーズに進むのは、親神様・教祖のお導きに違いない」と思うようになりました。また、この研究を親神様・教祖が望んでおられると思えて、心強く感じています。
今後は「女性と移動」「女性と宗教」の両方に焦点を当てた研究を進めたいと思っています。具体的には、渡台した日本人の女性布教師の巡教・伝道について調査するほか、彼女たちがどのように主体性を構築していったのかを研究したいと考えています。
【きゅう・しゅくぶん】
1967年、台湾生まれ。台湾の南華大学国際事務・企業学科教授として長年、日本と台湾を舞台に「女性の国際移動」をテーマとする研究に専心。昨年までの研究結果をまとめた論文『女行・履行・旅行:天理教臺籍女佈教師返回原地的經驗(台湾の女性天理教布教師のおぢば帰りの経験)』は、台湾で最も権威のある学会誌の一つ『女學學誌:婦女與性別研究(女学学誌:女性とジェンダー研究)』に掲載された。