「月開発元年」の中秋に – 視点
2023・10/11号を見る
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2023年は「月開発元年」らしい。
2022年11月、NASAの大型ロケットの打ち上げを皮切りに、日本など23カ国の協力による国際プロジェクト「アルテミス計画」がスタートした。
アルテミス計画とは、有人の月面着陸を目指した半世紀前の「アポロ計画」をさらに推し進め、宇宙飛行士が月に長期滞在し、人間が実際に暮らすための研究開発を行うもの。そして月面基地を拠点に、2040年代には火星へ人間を送る目論見だという。
主要国が月の開発に乗り出した背景に「水」がある。近年の調査で、月の南極に水があるらしいことが分かってきた。水があれば、生命維持に欠かせない飲料水や生活用水はもとより、水を酸素と水素に電気分解してエネルギーを作ることもできる。
もとより、そこには米中露やインドなど大国の“地球外フロンティア”をめぐる覇権争いがある。さらに、安全保障上の問題や新規ビジネスの思惑も月開発に拍車をかける。
ところで筆者は、人類初の単独宇宙遊泳を果たしたアポロ9号の搭乗員、ラッセル・シュワイカート氏にインタビューしたことがある。1985年、おぢばに来訪した氏は、天理小学校での講演に先がけて天理時報の取材を受け、次のようなエピソードを語った。
技術的トラブルで5分ほど宇宙空間に一人取り残された。全くの静寂の中で青い地球が足元に、上方には無限の闇が広がっている。このわずかな短い時間に、哲学的な問いが次々と脳裏に押し寄せてきた。おまえはなぜここにいるのか、おまえが見ているものは何なのか、おまえと世界はどう関係しているのか、この体験の意味は何だ、人生とは、人間とは等々。そして一つの思いに至る。「いま私は、人間という種を代表して地球を眺めている。この体験を、人間という種に伝えなければという強い義務感が生じた」
氏の直観は、のちに「コズミック・バース(宇宙意識の誕生)」という概念に収斂される。宇宙開発を通して、地球を外から見る意識の誕生の時代を人類は迎えたという認識である(井上昭夫著『こころの進化』)。
終わりの見えないウクライナ戦争、気候変動による大規模な自然災害、特に今年は地震、森林火災、洪水と異変続きだ。宇宙から地球を丸ごと見る人間が増えることで、かかる世界的規模の事象の中に、この世と人間を創造された親神様の俯瞰的まなざしを意識しつつ、陽気ぐらし世界へのリアルな思案が一段と深まるかもしれない。
そんな妄想とともに、中秋の名月を仰いだ。
(松本)