「プーチンの戦争」を止めるのは誰か – 手嶋龍一のグローバルアイ14
ロシアのプーチン大統領が対ウクライナ国境を侵すよう精鋭部隊に命じてから、戦いは遂に100日を超えてしまった。ウクライナ東部のドンバス地方を中心に繰り広げられる戦闘は、子供や女性を巻き込んで、いまも多くの犠牲者を出し続けている。長期戦の様相がここまで濃くなっている要因は主に三つある。
第一は、ロシア側が首都キーウに親ロ派傀儡政権を樹立するのに失敗して以来、開戦前に実効支配していたルハンスク州、ドネツク州の一部とクリミア半島から占領地域を徐々に拡げる作戦に切り替えたからだ。最前線の激戦地セベロドネツク市の全域も遂にロシア軍の制圧下に入ってしまった。
第二に、G7(西側主要7カ国)を中心に実施している経済制裁は、屈指のエネルギー大国ロシアの抵抗で徐々にしか効いていないことだ。いまもロシアは原油、天然ガスを輸出し、その決裁代金を戦費に充てている。ドイツ・エルマウで開催されたG7サミットで金の禁輸が新たに合意されたが、これもモスクワを兵糧攻めにする難しさを物語るものだ。
第三に、ウクライナでの戦闘をやめさせ、調停案をまとめる役割を国連も有力国も果たせずにいることだ。「ゼレンスキーのウクライナ」はロシアに奪われたすべての領土を取り戻すまで戦い続けると強気の姿勢を崩さない。国際社会が結束して三つの要因を乗り越えなければ、「プーチンの戦争」は今後も続くという悲観的な見通しに傾かざるを得ない。
ただ、我々が手をこまぬいている間にも戦争の犠牲者は増え続ける。そして世界的に小麦が不足し、エネルギー価格は高騰し、途上国の人々の暮らしを直撃しつつある。
日本は世界第3の経済大国であり、すべての非核保有国を取りまとめて停戦の舞台を用意できる潜在力を秘めている。G7サミットで主要国に同調するだけでは、東アジア唯一の参加国の責務を果たしているとは言えない。「プーチンの戦争」に苦しむ途上国を束ね、いまこそ停戦に向けて行動する時だろう。”絶望の唄”を歌うのは、まだはやい。