ありがとうポスト – 思い出のアップルパイ
“アメリカのお母さん”へ
山倉麻智子(66歳・薩州分教会ようぼく・天理市)
40年ほど前、天理高校の教諭をしていた夫が「留学して英語でアメリカ史を学びたい」と言いだしました。2年間の準備を経て、テキサス大学オースティン校への留学が決まりました。
私と当時1歳の長男もついていくことにしましたが、私は仕事や子育てなどに追われ、英会話の勉強もほとんどできずに渡米しました。
夫は昼と夜の弁当を持って大学へ通い、図書館が閉まる深夜零時まで猛勉強。一方の私は、「ハロー」のひと言を発することさえ恥ずかしく、テレビの内容もちんぷんかんぷん。現地の味覚にもなじめず、だんだん孤独を感じるようになりました。
そんなある日、夫が選択した科目の先生が、ピクニックに誘ってくださったのです。週末、4家族ほどがランチを持ち寄り、公園に集まりました。
そのとき先生の奥さまが、私たちの生活について、いろいろと話を聞いてくださったのです。その後も奥さまは、私と息子を買い物へ連れていったり、七面鳥の丸焼きなどの伝統料理で私たちをもてなしてくださったりしました。
親切にしてもらう一方で、私には後ろめたい気持ちがありました。英語での意思疎通が図れないため、奥さまがつまらない思いをされているのではないかと不安を感じ、夫に尋ねてもらったのです。すると、奥さまは「そんなことはない」と優しく答えてくださり、ほっとしたのを覚えています。
最も印象に残っているのは、奥さまから作り方を教わったアップルパイです。アメリカの定番料理で、それぞれの家庭の味があり、砂糖の代わりに蜂蜜を入れる奥さま手作りのアップルパイを、私たち家族はとても気に入りました。
親交を深めるうちに、困ったことはなんでも相談するようになりました。そんななか、少しずつ英語を覚え、アメリカでの生活がとても楽しくなっていきました。いつしか私は、奥さまのことを“アメリカのお母さん”と思うようになりました。
帰国後、夫は先生から学んだことを胸に教壇に立ち続け、のちに天理大学教授となり、この3月に退職しました。
息子をおんぶしながら、英和辞書を片手に奥さまからレシピを教わったアップルパイは“わが家の味”となり、いまでは孫からもリクエストされます。
現在、83歳になられた先生は、お元気で教壇に立たれています。奥さまも、先生をサポートされているそうです。
アップルパイを作るたびに、私たちの人生の基礎を築いてくださった“アメリカのお母さん”のこと、そして異文化に体当たりをして、視野を広げられたアメリカでの2年間を懐かしく思い出します。
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