心の復興願う“希望の調べ”東日本大震災被災地に響く – リポート 津大教会「津雅龍会」
2023・11/1号を見る
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福島・新地町で慰問コンサート
東日本大震災から12年目の秋を迎えた。平成23年3月11日の震災発生直後から、災害救援ひのきしん隊をはじめ、震災の大節を“わが事”と受けとめた各地の教会、教区・支部など数多くの教友有志が被災地へ駆けつけ、現在まで息長い支援活動が続けられている。こうしたなか、津大教会(久保初雄会長・津市)の雅楽部「津雅龍会」(楽長=久保和成・久居分教会長)は10月1日、大教会を挙げて継続してきた支援活動の集大成として、「福島復興支援雅楽演奏会」を開催。甚大な津波被害に見舞われた福島県新地町に、被災者の心の復興を願う“希望の調べ”を響かせた。
津大教会では、震災直後から福島県内で支援活動を続けている。
“あの日”久保初雄会長(64歳)は、すぐさま部内教会の信者の安否を確認。現地の高速道路が復旧した2週間後、東北地方の部内教会を慰問し、救援物資を届けた。
その際、大きな被害に見舞われた福島の街の状況を目の当たりにし、「部内教会への支援だけでは申し訳ない。地震、津波、原発事故の“三つの爪痕”に苦しむ福島の人たちのために、支援のお手伝いをさせていただこうと決意した」。
その後、平澤勇一・福島教区長(64歳・磐城平大教会長)の協力を得て現地のニーズを把握し、大教会の教友有志が仮設住宅で炊き出しや交流会を実施。さらに平成28年、津雅龍会と福島教区雅楽会の合同で、津市の文化センターを会場に「福島復興チャリティーコンサート」を開催し、チケットの売り上げを支援金として福島教区へ寄託。その後は、仮設住宅での雅楽慰問演奏会も実施してきた。
震災から10年を迎えた令和3年、福島教区や、新地町在住の目黒淳・福相分教会長(60歳)の協力のもと、津波の被害に見舞われた同町の文化交流センターで、福島教区雅楽会を招いて雅楽演奏会を実施することが決定。思わぬコロナ禍により2度の中止を余儀なくされたものの、今年10月、念願の開催に漕ぎつけた。
当日に向け、新地町あげての全面的なバックアップのもと、チラシを町中に配布するなど、関係者一丸となって準備を進めてきた。
『ふるさと』の合唱に涙
当日、150人を超える聴衆が詰めかけた演奏会は2部構成で実施。第1部では、津雅龍会が管絃の平調『越殿楽』などを披露した。
この後、平澤教区長から久保会長へ、長年にわたる復興支援への謝意を込めて花束を贈呈。1部最後の演目では、福島教区雅楽会が『五常楽急』を演奏した。
第2部では、楽器紹介の時間が持たれるなか、篳篥が奏でるメロディーに合わせて、唱歌『ふるさと』を聴衆と共に大合唱。「うさぎおいし かのやま……」。被災者の心の復興を願う“希望の調べ”に合わせ、涙を流しながら歌う人々の姿が見られた。
プログラムの最後は、福島教区雅楽会との『長慶子』の合同演奏で演奏会を締めくくった。
新地町教育委員会教育長の佐々木孝司さんは「地震と津波により、この小さな町で100人を超える方々が亡くなった。多くの被災者が心に深い傷を負うなか、昨年あたりから、ようやく立ち直ろうという機運が高まっているように感じる。復興への願いが込められた雅楽の演奏を聴かせていただき、復興へ向かう私たちの心の後押しになったと思う。演奏会に関わったすべての人たちに感謝している」と語った。
平澤教区長は「被災者の一人として感激した。いまだ福島は復興の途上にあるが、津大教会の皆さんがコロナ禍のさなかも復興への思いを途切れさせることなく、福島に赴いて元気を届けてくださり、ありがたい」と述べた。
久保会長は「被災された方々と復興への思いを共有する演奏会になったと感じる。大教会としての復興支援活動は、この演奏会をもって一つの区切りとなるが、これからも信者一人ひとりが被災地に心をつなぎ、それぞれができる活動を心がけていきたい」と話した。
(文=久保加津真、写真=嶋﨑良)