秘密の通路の先に – 成人へのビジョン20
2023・12/13号を見る
【AI音声対象記事】
スタンダードプランで視聴できます。
1年ほど前、リサイクルショップに地球儀を持ち込みました。廃校となった小学校の備品を譲り受けたもので、バランスボールほどの大きさがあります。
一時は歓迎したものの置き場所に困り、しばらくして売りに出すことに。「こんなのを見たら旅行好きの主人が喜びます。いまはコロナで旅行へ行けないから、せめて地球儀を眺めて楽しみたいですね」。60代と思われる女性スタッフが微笑みます。地球儀を通して世界各地に思いを馳せるご主人も、そんなご主人の姿を想像する奥さんも、とても素敵です。
おぢばに滞在中のこと。友人が、時間があるなら記念建物(明治21年当時のお屋敷の主な建物が保存されている)へ行くといいよ、と勧めてくれました。
「きっとご在世当時、おやさまがその柱にふれられたこともあったと思う」。そう聞いて俄然その気になった私は、翌日に足を運びました。久しく訪れていなかった記念建物。気の赴くままに見て回りました。一時期、おやさまがお居間としてお使いになった中南の門屋。「おやさまがその柱にふれられたこともあったと思う」。私は柱に優しくふれます。
次第に言いようのない思いが込み上げてきます。それは、肌から肌へ伝わる体温ほどの速度で、柱から掌を伝い流れ込んでくるようです。ぬくもり、慕わしさ、切なさ――さまざまな情感が去来し、自然と涙が流れます。その瞬間、その柱は、おやさまご在世当時の時空へと私を誘う、確かな”通路”となったのです。
私たちは何かを通して、現実にはそこにないものと強くつながることができます。目の前にないものを感受できる、これは人間に与えられた奇跡にも似た能力です。人は幻と言うかもしれません。けれども、それによって潤う生がある。これは紛れもない事実です。
さて、地球儀。後日、小学2年生の息子が家に地球儀がないことに気づきます。事の由を告げると、とても悲しそうです。地球儀は彼にとっての通路だったんだと分かり、私も悲しい気持ちになりました。
忘れがちですが、きっと私たちは、そうした秘密の通路をそれぞれ持っています。大切なものにアクセスするための通路を。それは私たちの心を潤し、その先で豊かな悟りへ通じていると、私は信じています。