帰って来る子供 – おやのことば・おやのこころ
2024年2月24日
おやのことば・おやのこころ
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多く寄り来る、帰って来る子供のその中に、荷作りして車に積んで持って行くような者もあるで。
『稿本天理教教祖伝逸話篇』79「帰って来る子供」
2010年12月、国際学会の帰り途でニューヨークに立ち寄りました。音楽の殿堂・カーネギーホールの響きを味わうチャンスだと思い、嬉々として公式サイトを調べると、その日の演目はサイトウ・キネン・オーケストラの『幻想交響曲』。食道がんの手術を乗り越えた小澤征爾氏の復帰公演でした。
「アメリカまで来て、日本人の演奏か……」という考えが浮かばなかったわけではありませんが、いまとなっては貴重な場に居合わせたものだと思います。氏の訃報に接し、ライブ音源を聴き直すと、病み上がりの75歳とは思えない生命力に満ちた名演。再会を喜ぶ奏者との生き生きとしたコミュニケーションが、そのまま音になって溢れ出ているようでした。
齋藤秀雄に基礎を叩き込まれ、カラヤンやレナード・バーンスタインら超一流の指揮者の薫陶を受けた小澤氏。療養中に受けたインタビューでは「先生の指揮を見ていると、だいたい分かるんです。ああ、この人はこういうことをこういうふうにやろうとしているんだなと。そういうふうに分析的に見る。だからそのまま真似しようという気持ちになれません」と語る一方で、それができたのは学生時代、実地に指揮経験を積んだおかげとも話しています。
音楽家に限らず、偉大な先人たちの技術やイメージを受け継ぐことは容易ではないでしょう。だからこそ、師の中に多くのプレゼントを見いだした小澤氏の生き方と音楽は、世界中で愛されているのかもしれません。
(大塚)