天下大乱の兆し – 手嶋龍一のグローバルアイ34
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パレスチナ・ガザ地区のハマスと戦うイスラエルを標的に、300を超える無人攻撃機、巡航ミサイル、弾道ミサイルが1千キロ彼方のイランから次々に打ち込まれた。13日深夜から14日未明にかけての凶事だった。
先にシリアのイラン大使館がイスラエル軍に爆撃され、イラン革命防衛隊の司令官が殺害されたことへの報復であった。エルサレム周辺の地域には一斉に空襲警報が鳴り響き、イスラエルが誇る防空システムが作動して、イランから飛来したミサイル、無人攻撃機の大半を迎撃した模様だ。
イスラエル軍がハマスと戦闘を始めて以来、イスラム武装勢力の背後に控える大国イランが、イスラエルの領域を直接空爆したのはこれが初めてだった。イスラエルの隣国レバノンにいる武装勢力ヒズボラやイエメンに拠点を持つフーシ派も、これに呼応してイスラエルが占拠するゴラン高原などを攻撃したと現地のメディアは伝えている。
今回のイランからの攻撃に対して、イスラエルのネタニヤフ政権が更なる報復に踏み切れば、第5次中東戦争に発展してしまう。米国のバイデン政権は、イスラエルがイランと直接対決に踏み切っても米国は関与しないとクギをさし、ネタニヤフ政権の説得に努めている。だが”戦争は錯誤の連続”である。報復の連鎖を当座は止められても、互いが手の内を読み誤って新たな戦争につながる芽は残る。
長期化するウクライナ戦争の支援に足を絡めとられているバイデン政権が、中東の大乱に巻き込まれれば、台湾海峡と朝鮮半島の有事への備えは疎かになってしまう。岸田総理は今回の訪米で、日・米・フィリピンの首脳会談に臨み、海洋への進出を続ける中国に三国が連携して臨むことを確認した。米国はここ数年、日本、韓国、豪州、インド、英国を様々に糾合し、対中包囲網を編み上げてきた。だが、それはもはや米国が単独では新たな危機を抑止できないからだ。”日米同盟はこれまでになく強化され、成熟した”――そんな米国側のおだてを真に受けて浮かれている時ではない。