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濱 孝(天理教信道分教会長夫人)
1972年生まれ

曾祖母から父へ

私には3歳上の姉と3歳下の妹がいる。

姉は若いころ、水泳の飛び込みの選手だった。天理高校在学中に全日本チャンピオンになり、それから27歳で引退するまで、3度のオリンピックに出場した。

ジュニアの日本代表として初めて海外遠征に出発する日の前夜、中学3年生の姉に父が言い聞かせていた。

「世界中どこにいても、いつも心の中で『なむ天理王命』と唱えなさい。いつも心をまっすぐ『おぢば』に向けておきなさい」

天理王命とは、この世と人間を創造された親神様の神名。ぢばは、天理教教会本部神殿の中央にある人間創造の元の地点で、親神様がお鎮まりくださる人類のふるさと。

そばにいた私には、普段から聞かされ耳慣れたその言葉が、初めての海外遠征に緊張している姉をしっかり守ってくれる、とびきり安心なお守りのように思えた。

この言葉は父が、父の祖母から聞かされたものだという。東京で大学を終え、出版界で編集者として活動していた父が、生まれて初めて海外に出張するとき、曾祖母は「気をつけてね」とか「頑張っておいで」といった応援の言葉ではなく、この言葉を贈ってくれたのだった。

姉が海外での試合で、観客のヤジが気になり思うように飛べず、悩んで電話してきたとき、父は「飛び込み台の上に立ったら、心の中で『なむ天理王命』と唱え、『教祖、ご覧ください』という気持ちで飛んだらいいよ」と、電話口で優しく説いていた。

実際に姉は、地方の小さな大会でも、オリンピックのような大会でも、飛び込み台の上に立ったら、いつも心の中で何度も神名を唱えたという。

息子たちへ

姉とは異なり、それぞれ音楽の道に進んだ私と妹には、「どの舞台でも同じ。心の中で神名を唱え、まず教祖に聞いていただく気持ちで楽器を弾くように」と常々言っていた。

イラスト・ふじたゆい

震えるほど緊張するオーディションや、びっくりするような大きな舞台でも、目をつむり呼吸を整え、神名を唱えてから楽器を触ると、不思議に頭の中の雑念がすっと消えたような気がしたものだ。

いま、私は3人の息子たちに、父と同じ言葉を伝えている。高校や大学の入試のときはもちろん、卒論の発表や、試合でグラウンドに入るときなどには、いつも心の中で神名を唱えなさいと伝えてきた。

それは、試験に合格しますようにとか、試合に勝ちますようにといった、お願いのために唱えるのではない。いつどんな場面でも、神様がずっと、そばで見守ってくださっているということ、安心して精いっぱい頑張ればいいということを、あらためて確認する儀式のようなものなのだ。

「どこにいても、心の中で『なむ天理王命』と唱えること」――いまから何十年も前に、生きるために一番大事なことを父にきちんと伝えてくれた曾祖母を、私は誇りに思う。

そして、私も曾祖母のように、この言葉を伝え続けようと思っているし、息子たちにも伝え続けてほしいと思う。


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