いつも住みよい所へ – 成人へのビジョン15
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数年前から雨が好きになりました。草抜きをするようになったからです。雨の後は土に水分がたっぷり含まれ、草を抜くのに絶好のタイミングです。
草抜きを続ける中で気づくことがあります。「植物は自らが適した環境に生育する」ということです。観察すると、いわゆる雑草にもそれぞれに得意とする環境があるのが分かります。日差しを燦々と受ける所、日の当たらない所、雨露のたまる所、硬い土、柔らかい土……。たとえ根から抜いても、いつも決まった場所に決まった植物が生えてきます。つまり、これは「ランダム(偶然)ではない」ということです。
「置かれた場所で咲きなさい」という言葉を聞きますが、置かれた場所で咲き続けられるかどうかは、その植物の環境適性によります。サボテンの種を小川のほとりに置いても花は咲きません。自然界のルールは適者生存なのです。
人間も自然の一部。無理な環境では育ちません。ただ、人間は他の生物と違い、環境に身を委ねるだけでなく、自ら環境を選び、さらに手を加え、整えることもできます。それは置かれた場所から「逃げる」という”ルール違反”ではなく、生き方の一つでしょう。
「逃げる」にはネガティブな響きがありますが、何より大事なのは「生きる」ことです。それは「逃げ」ではなく、選ぶことであり、整えること。避けられない宿命なら、ときに受け入れる強さや覚悟も必要ですが、そんなことはめったにない。まして、それを人に強いることはできません。
環境を変えるときは、それを「逃げ」や「負け」と思わず、雨露をたっぷり含んだ土が、草抜きを容易にするように、潤いの心で自分や他者に接していきたいものです。置かれた場所で咲こうとする決意も、他所で生きんとする決断も、人が精いっぱいに生きようとするとき、等しく尊いものだと思います。
自らを生かす土壌があって初めて、生命はたくましく根を張ります。いつも住みよい所へ。