日本は“戦闘機輸出国”になるのか – 手嶋龍一のグローバルアイ32
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FSX・次期支援戦闘機の開発を巡って、日米両国は水面下で壮烈な戦いを繰り広げていた。”日米FSX戦争”である。米ソの冷戦が終焉を迎えた90年前後のことだ。三菱重工製のF1戦闘機の後継機も国産とするか、米国製を購入するのか。日米両国は一歩も譲らず対立を深めていた。米議会を巻き込んだ論争の果てに、米国機をベースに日米が最新鋭の装備を加えて「共同開発」することで決着した。難産の末に誕生したF2戦闘機も配備から4半世紀が経った。F2戦闘機の後継機は日・英・伊で共同開発することが決まった。米国が早々と計画から離脱してしまったからだ。
岸田総理は次期戦闘機の第三国への輸出を目指し、「2月末に与党間の協議で結論を終えたい」と国会で曖昧な答弁に終始している。連立を組む公明党が次期戦闘機の輸出解禁に難色を示しているからだ。だが、この問題は与党内部の亀裂に留まらない。ニッポンがどんな国を目指すのか。その将来像が問われている。殺傷能力を持つ兵器を第三国に輸出しない。戦後の日本は、そんな国是を掲げて国際社会に独自の地位を築いてきた。日本はウクライナ戦争でゼレンスキー政権を支持しているが、殺傷能力のある武器は供与していない。それによってロシア、ウクライナ双方に停戦を呼びかけ、仲介役を果たす余地を残している。国際社会はそんなニッポンの調停力に期待している。
新鋭戦闘機の研究・開発・製造に当たっては、膨大な予算と製造設備を必要とする。それゆえ、第三国への輸出を可能にして製造コストを軽減し、国内の防衛産業の育成を図りたい――これが経産省と防衛企業の言い分だ。だが、欧米と肩を並べる輸出競争力を備える戦闘機を本当に産み出せるのか、自信をもって答える関係者は見当たらない。日本は独自の名誉ある地位を追い求めるのか。防衛産業の地位を守りたいのか、われわれは選択の時を迎えている。