季吟と芭蕉師弟の人生をたどる – 東京・天理ギャラリー 第181回展「芭蕉の根源――北村季吟生誕四百年によせて」
天理図書館(安藤正治館長)は、東京・天理ギャラリー(東京都千代田区)を会場に、第181回展「芭蕉の根源――北村季吟生誕四百年によせて」を5月12日から6月9日にかけて開催する。江戸時代前期を生きた北村季吟は、その生涯において俳諧の一門を立て、源氏物語の『湖月鈔』や枕草子の『春曙抄』など、古典文学の注釈書を数多く著した。一方、季吟に師事して俳句の世界に足を踏み入れた松尾芭蕉は、師風を離れて独自の世界を築き、「俳聖」として後世に名を轟かせた。今展では、季吟の生誕400年に寄せて、同館が所蔵する季吟と芭蕉の自筆資料など52点を展示。師弟の人生をたどり、俳諧を高みへ導いた「芭蕉の根源」にふれることができる。ここでは、展示資料の一部を紙上紹介する。
奥の細道行脚之図
本作は芭蕉の生前に描かれた肖像であり、その真を得たものといわれている。画者の許六は、芭蕉が「画はとつて予が師とし、風雅はをしへて予が弟子となす」(許六離別詞)と述べるように、狩野派の画技に通じ、芭蕉に画法を教えた門弟である。
貝おほひ
「俳諧合(句合)」とは、句を左右に並べたもので、勝ち負けを表す勝負付けや句の評価を示す判詞が記されることも多い。『貝おほひ』は、芭蕉が奉納のために著した、処女出版物である。判詞に流行詞を用いることで、軽妙な雰囲気を醸し出している。同書は現存する唯一の刊本であり、芭蕉の現存最古の著書であることなど、希少性が高い資料である。
残雪
季吟が62歳のとき、長女・たまの子の乙部長則が16歳の若さで病没してしまう。季吟にとっては、自邸で出生した愛孫であり、その悲嘆は深かった。幼いころから和歌を好み、才能にあふれていた長則が残した和歌を、季吟が一書にまとめたのが「残雪」と呼ばれる歌集である。
湖月鈔
『源氏物語』の注釈書で、全54帖と系図等6巻から成る。本文を主体に、頭注・傍注で解説を施し、本文読解の助けとした出版物で、明治時代に至るまで『源氏物語』の流布本(一般に普及した本)の位置を占めた。
萩鹿図
萩に鹿という伝統的な組み合わせを描いた芭蕉の画。本作には落款(作品が完成した際に記す作者の署名・捺印)がないが、画中に杉風筆で「芭蕉翁之画 杉風」とある。一面にわたる細密で写実的な描写が、芭蕉の画技を示している。