エジプト文化に宿る「日本との共通性」 – 天理参考館 第101回企画展「古代エジプトの世界――過去・現在」記念講演会
2026・5/27号を見る
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既報の通り、天理参考館(三濱靖和館長)は第101回企画展「古代エジプトの世界――過去・現在」を6月8日まで開催している。5月16日には、同展の関連行事として記念講演会を開き、田澤恵子・古代オリエント博物館研究部長が「日本人が愛した古代エジプト――天理参考館の所蔵資料を中心に」と題して登壇した。
田澤氏は、古代エジプトの文化や風土、宗教儀礼について、今展の展示品や地理的背景から得られる知見を交えて講演した。
その中で、古代エジプト文明を形作った最大の基盤は、「ナイル川の増水(氾濫)」がもたらした沃土であると指摘。ナイル川は毎年決まった時期に緩やかに増水し、上流から栄養分を豊富に含んだ肥沃な黒土を運んでくると説明したうえで、この極めて安定した自然現象こそが予測可能な農業の営みを育み、人々の暮らしを根底から支えていたと述べた。
続いて、古代エジプト人は、この恵みを生んだナイル川を、豊穣の神「ハピ」として崇拝していたと紹介。「ハピ」を祀るための特定の神殿は存在しないが、人々は各地で増水を祝う祭りを行っていた記録があるとして、「大自然そのものを神として崇拝していた」と語った。
来世での「再生」に備えた副葬品も
この後、古代エジプト人は、死後、「イアルの野」と呼ばれる楽園で蘇り、再び五感を取り戻して暮らすことを望んでおり、「バァ(人格・性格)」「カァ(生命力)」「影」「名前」「肉体」の五つが人間を構成する要素と考えていたことにふれたうえで、「この五つは人間としての存在を構成する不可欠なものであり、どれか一つでも欠けると、来世で人間として存続できないとされていた」として、当時の人々が生死について特別な思想を持っていたと話した。
また、今展の展示品である「チャイ・アセト・イムウ墓壁断片」をスクリーンに映しながら、その一部に彫られた「マァケルウ(声正しき者)」という文字について解説。「マァケルウ」は、死者が来世で復活できるかを決める「オシリス裁判」を通過し、「イアルの野」へ向かう資格を与えられた者に贈られる称号であるとして、「古代エジプトでは、死者の名前には必ず『マァケルウ』と書き添えられている。墓の壁画や石碑を鑑賞する際は探してみてほしい」と語った。
このほか、当時の人々が復活・再生を叶えるために行った具体的な取り組みを紹介。現世を離れた魂が再び戻ってくる器として、肉体を保存する「ミイラ」を作ったほか、ミイラを保護するための黄金の「ミイラ被い」(今展展示)、摘出した内臓を個別に納める「カノポス壺」(同)など、多種多様な副葬品が手厚く用意されていたことを踏まえ、「古代エジプト人は、来世でもう一度自分として生きるために、さまざまな努力と準備をしていた」と述べた。

最後に田澤氏は、日本人が古代エジプトに魅了され、愛着を抱く理由に言及。古代エジプトの文字「ヒエログリフ」が音を表す文字だけでなく、言葉のジャンルを示す漢字の偏のような機能を持つことや、日本と同様に複数の文字体系を使い分けている点、家内安全や子孫繁栄を願う祖先崇拝の姿勢などを例に挙げ、「古代エジプトと日本の文化の間には、日本人が本能的に親近感を抱くような多くの共通性が存在していると考えられる」と話した。









