十年ぶりの証明写真 – Well being 日々の暮らしを彩る 18
2026・6/24号を見る
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十年ぶりに写真館へ行った。マイナンバーカードの更新のため証明写真の撮影に。街中のセルフの照明写真機にも「ここからオンライン申請ができます」とあるが、操作が不安だし落ち着かない。更新したらまた十年は使い続けるカード。写真は少しでもキレイな方がうれしいから、プロに頼もう。十年前に撮ってもらった写真は悪くなかった。その店を予約。
出かける前に髪をセット。筒型のヘアアイロンでてっぺんの髪の根元を立たせる。ここをふっくらさせるとフェイスラインのやつれが目立たないのだ。雨だと到着までの間に、湿気で髪が寝てしまい、せっかくの努力が水の泡だが、予約した日は幸い晴れ。期待が髪同様にふくらむ。
撮影技師は初めて会う女性だった。とてもていねい、かつ真面目な人で「証明写真は、基準では両耳と、両方の眉が出ていることとなっています」。知らなかった。十年前より厳しくなっているのか。私のヘアスタイルは横の毛は下ろし、前は分け目をつけずに左方向へ流すもの。鏡を借りて耳にかけ、流し方を整える。右の眉は完璧に現れ、左は眉尻に毛先がふれているかどうか。後はカメラを覗いてもらっての微調整だ。
「耳にかけた髪がはみ出ています」「ここもまだ少しかかりそうな」。技師さんがカメラと私の間を行き来し、何度も櫛でなでつける。鏡を返したので自分ではわからず、プロに任せるのみである。繰り返しなでつけるうち、セットが無に帰さないか少々心配。
それも束の間。いざ撮影に入ると髪のことまで気が回らなくなった。顔の位置調整がたいへんすぎて。「首を左にもう一ミリ傾けてください。倒しすぎました。一ミリ戻して」「その角度のまま鼻の向きだけ一ミリ右へ」。ミリ単位の指示だ。照明写真の枠となるだろう四角の中心線に合わせ、顔をまっすぐ立てるのがこんなにも難しいとは。緊張と疲労で、右と左も間違えるように。
悪戦苦闘の末に合ったらしく「こうなりました」。カメラを台から外し見せてくれる。愕然とした。驚いて固まったようにこわばった顔。恐れていた髪は、みごとな一九分けだ。ふくらみの痕跡もなくフェイスラインにへばりつき、額は光を照り返さんばかりに露わ。自分では一生しないヘアスタイルだ。証明写真の基準はクリアしているだろうけど、チェックする機械が本人と認識できるかどうか。
プロの撮影した写真にノーは言えない。何よりもあの位置調整を再びするエネルギーはなく……。人に見せる写真ではないし。十年間ひそかに使い続けよう。
岸本葉子・エッセイスト











