笙の美しい音色を次代へ 雅楽楽器師 久松誠さん – ようぼく百花
本教の祭儀で用いられる雅楽には、旋律を奏でる楽器として、龍笛、篳篥、笙の三つがある。なかでも笙は、特徴的な音色で美しい和音を奏でる楽器であり、その構造は複雑精巧だ。
愛知県常滑市で「和音工房」を主宰する久松誠さん(56歳・尾張常南分教会ようぼく)は、伯父の守さん(故人)が培ってきた技術を受け継ぎ、楽器師として笙の製作に励んでいる。
現在、笙を作ることのできる職人は全国にわずか数人しかおらず、高齢の人も少なくない。以前から多くの依頼を受けていたが、昨年、NHKのテレビ番組『美の壺』で紹介されてからは、さらに注文が増加。現在、30本ほど受注しており、約3年待ちの状態だという。
神様の道具を作るつもりで
教会長の次男として生まれ、天理高校で求道部雅楽班に所属した。卒業後、進路に悩むなか、守さんが手がけていた笙の製作や修繕の仕事を手伝うことになった。
「当時、伯父は約100本もの製作依頼を抱えていたため、春休みの間、手伝うことになった。その後、進路について父に相談すると、伯父と話がついていたのか、その後も手伝いを続けるように言われた」
竹を削る地道な作業は苦ではなかった。漆にかぶれることもなく、職人としての適性もあった。5年後、守さんから部品と500本の竹を“退職金”として分けてもらい、独立した。
守さんはよく、「楽器は人を選ぶ」と語っていたという。
「『これは良くできた』と思ったものでも、依頼者に合わず、のちに別の人が使うこともある。その人の徳分に見合ったものが与わるのだから、神様にお任せして一つひとつを精いっぱい作るだけだ、と話していた」
独立後しばらくは、守さんが笙の販売を請け負った。比較的安価な久松さんの笙は売れ行きが良く、次第に注文も入るようになっていった。
自らは篳篥を奏するが、笙の美しい音色や複雑な製作過程に魅力を感じた。次第に製作にのめり込んでいき、難しいとされる簧(リード部分)も自ら作るようになった。
「簧は、うまく削れたと思っても、竹に取り付けると音のバランスが悪いということがよくある。何度も調整が必要なので、技術と時間を要するが、その分、いい音が鳴ったときにやりがいを感じる」
あるとき、毎月6回の雅楽の練習日を設けている上級教会の松山宏治・常滑分教会長から、こんな言葉をかけられた。「雅楽は“無形のお供え”。月次祭はもとより、結婚式や葬儀など、人生の節目に聞いてもらえる尊いものだ」。この言葉が、久松さんの心に響いた。
「それまで、あまり深く考えていなかったが、奏者として練習の向き合い方が変わった。楽器師としても、神様の道具の一つを作らせてもらっている、と感じながら作るようになった」
工房では、久松さんの次女・倫子さん(25歳・同教会ようぼく)が簧を取り付ける。まだ手伝い始めたばかりというが、慣れた手つきで作業に当たる。その姿を横目に、「製作の技術を次代へ継承するのは、なかなか難しい。まずは、洗い替えなどのメンテナンスからやってもらえたら」と久松さんは目を細める。
美しい笙の音を次代へ残すべく、「和音工房」では、久松さん親子が今日も製作に取りかかる。
「伯父をはじめ、さまざまな方のおかげで、“天職”といえる仕事を続けることができている。仕事も、出会いも、経験も、すべては神様からのお与え。役目を与えていただいた喜びを胸に、残りの人生を楽器作り一筋に全うできれば有り難い」
コラム 「笙」
羽が360種あるとされる伝説上の「鳳凰」が、羽をたたんで休んでいる姿を象って作られたとされる。「匏」と呼ばれるお椀型の上に17本の細い竹管が差し込まれ、そのうち15本の竹の下部にある簧が振動して音が鳴る。数本の指孔を同時に押さえる「合竹」と、一本ずつ吹く「一竹」の奏法があり、合竹では11種類の和音を奏でる。










