頼次期総統は台湾有事を阻めるか – 手嶋龍一のグローバルアイ31
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台湾の新しい総統に選ばれた頼清徳(らいせいとく)氏は“独立派”だ――。中国の習近平政権は、選挙中からそう断じて民進党の指導者を警戒してきた。中国は建国以来一貫して「台湾は中華人民共和国の密接にして不可分の一部である」と主張し、台湾を武力で解放するという旗を降ろしたことがない。習近平政権は、頼次期政権が台湾独立に大きく傾くようなことがあれば、反国家分裂法を拠り所に武力行使を躊躇わないと強硬な姿勢を崩さない。
それゆえ、民進党の頼次期総統も、中国の武力統一は断固として退けるとしながらも、「独立」には直接言及せず、「現状を維持する」と慎重な姿勢を崩さない。だが、台湾がどこまで事実上の独立に傾いているのかを見定めるのは、台湾、米国、日本のいずれでもない。武力行使に踏み切るか否かは、専ら習近平の中国の判断なのである。台湾が和戦の境となる“レッドライン”を越えたとする解釈権は中国にある。
ウイグルやチベットで暴動が起きたり、人々が日々の暮らしに強い不満を募らせたりすれば、民衆の不満を外に逸らそうと武力行使の危険は高まるだろう。ひとたび台湾情勢が緊迫化すれば横須賀基地から第7艦隊が台湾海峡に出動し、日本も日米安保の盟約に従って米軍と行動を共にせざるを得ないだろう。台湾有事とは日本有事に他ならない。
台湾に5月に誕生する3期目の民進党政権は、台湾海峡の有事の芽を事前に摘むことができるだろうか。中国の武力統一を阻むには、台湾が防衛力の強化に努めるだけでは十分ではない。頼氏が率いる台湾が“真珠のように輝く民主主義”の体制を堅持し、AIなどに欠かせない先端半導体の供給基地であり続ける。そうなら、国際社会は台湾が武力で侵される事態を許さないだろう。明日の台湾が世界の国々から信頼され、不可欠な存在になることができるか。新たな政治リーダーとなる頼次期総統の采配は、ひとり台湾だけでなく、日本をはじめとする東アジア全域の命運をも担っているのである。