あなたのスマホが狙われている – 手嶋龍一のグローバルアイ26
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「ご本人様不在のためお荷物を持ち帰りました」という宅配便のメールを受け取ったことがあるひとは多いだろう。本物と酷似しているため、ついインターネット上で宅配業者の住所を示す「URL」をクリックしてしまう。だが、ご注意あれ!これはあなたを標的に仕組まれた詐欺なのである。本物の「URL」と巧みに似せて、あなたの個人情報を盗み取り、預金などを引き出す“フィッシング”というインターネット犯罪だ。宅配業者を装った怪しいメールには返答してはいけない。差出人が定かでないメールの添付ファイルも開いてはいけない。あなたのスマホは詐欺グループが放つコンピューター・ウイルスに汚染されてしまう。
だが、こうしたインターネット犯罪は、暴力団や半グレ集団が手がけているだけではない。海を越えて国家が主導しているケースも珍しくない。ロシア軍の侵攻でクリミア半島が奪われた後、ウクライナ全土の発電所に大がかりなサイバー攻撃が仕掛けられた。さらには、バングラデシュの国立銀行が標的とされ、電子決済で巨額な資金が盗み取られる事件も起きている。その背後には北朝鮮の国家機関が関与していた疑いが濃くなっている。こうして奪われた資金は北朝鮮が進める核兵器とミサイルの開発・製造の資金源となっている。
私たちの身近で起きているフィッシング詐欺から大企業を脅して身代金を要求する“ランサムウェア”攻撃まで、新しいタイプの犯罪はインターネット空間を舞台に相次いでいる。日本政府も遅ればせながら、内閣にサイバーセキュリティセンター(NISC)を設け、新たに策定した国家安全保障戦略に「サイバー防御に能動的に取り組む」と謳っている。だが、中国、北朝鮮、欧米に比べて、訓練を受けた専門集団が決定的に不足している。日本政府はこの5年間で防衛費を総額43兆円まで増額するというが、サイバー空間と宇宙を舞台とする新しい戦争への備えは十分ではない。“将軍は一つ前の戦争を戦う”というが、いまの日本の姿はまさしくその典型である。