天理時報オンライン

痛みを知る訓練 – 心に効くおはなし


残寒の候。近くに用があって小石川後楽園の庭を歩いた。この庭は、江戸初期、水戸徳川氏の初祖頼房が造り、二代光圀によって完成した。黄門様のお庭である。

その庭の一画になんと田圃がある。これは光圀が嗣子・綱条の夫人(季姫)に農民の苦労を教えようと作った稲田で、今では毎年、文京区内の小学生が五月に田植えをし九月には稲刈りをしている。

作家の司馬遼太郎は、小学六年生の国語の教科書に書いた『二十一世紀に生きる君たちへ』という文章の中で、祈るようにして子どもたちに語りかける。

「……助け合うという気持ちや行動のもとのもとは、いたわりという感情である。他人の痛みを感じることと言ってもいい。やさしさと言いかえてもいい。

『いたわり』『他人の痛みを感じること』『やさしさ』みな似たような言葉である。この三つの言葉は、もともと一つの根から出ているのである。根といっても、本能ではない。だから、私たちは訓練をしてそれを身につけねばならないのである……」。

後楽園の稲田はいわば訓練である。

「貧に落ち切らねば、難儀なるおやさま者の味が分からん」と、教祖のお言葉。人の痛みは決して空想で推し量れるものではないだろうと思う。

光圀は、中国の『岳陽楼記』の一節より「民衆の楽しみに後れて楽しむ」という意味で後楽園と名づけた。

『おさしづ春秋』

橋本道人著(天理教名草分教会長)

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